What is "Rakuto Graffiti" ? WHAT IS ? CONTENTS SINGLE RELEASE MAKING PROCESS ABOUT COVER SONGS UNRELEASED LINER NOTES

『洛東グラフィティ』 ※ジャケットデザイン:奥井弘三度リスナーは洛東UNDERGROUNDが仕掛けたフェイントに引っかかり歯がみしているに違いない。“空想のサントラ盤”“空想のブルースバンドによるブルースアルバム”に次いで彼らが仕掛けたのは自称“空想三部作”のトリを飾る“空想青春歌謡大全集”... その名も『洛東グラフィティ』。

まず何より驚かされるのは全曲日本語で歌われていること。あの洛東UNDERGROUNDが日本語だって? そしてさらに全18曲中半分の9曲はなんと日本の歌謡曲/フォークソングのカバーである。吉田拓郎、井上陽水、中島みゆき、イルカ... あの時代の名曲が洛東UNDERGROUND独特の世界の中で蘇る。

思えば“自分の音楽ルーツには間違いなく歌謡曲が入っている”という橋本の発言を待つまでもなく、彼らの若き日は日本純正ポップスの黎明期であった。その時代に楽器を始め曲作りを始めた彼らがその影響を受けない訳がない。どうしてもカバーに目がいきがちだが『洛東グラフィティ』収録のオリジナル曲はあの時代への強いオマージュも感じさせる作品ばかりである。またお馴染みのサポートメンバー達も健在でありベーシスト上南雅博が前作に続いて全曲に参加、ライター後藤雄二はやはり青春時代に書いたという歌詞を提供(橋本が作曲)、さらにデザイナー奥井弘はまたまたユニークなジャケットデザインを手掛けている。


シングル『真夜中のカウボーイ』 ※ジャケットデザイン:奥井弘
前作で採用された手法で今回も録音されたサウンドは厚くドライブ感満点である。また橋本が新たにマンドリンを演奏するなど新たなチャレンジも行われている。なぜかパンク調で激しく演奏されるオープニングのタイガースのカバー曲「シー・シー・シー」から橋本が中学校時代に書いたという幻の名曲「ゆううつな日々」にいたるまで、またまた手の込んだ大仕掛けで迫る洛東UNDERGROUNDの充実の作品集『洛東グラフィティ』。心ゆくまでお楽しみいただきたいと思う。









Contents Of "Rakuto Graffiti" WHAT IS ? CONTENTS SINGLE RELEASE MAKING PROCESS ABOUT COVER SONGS UNRELEASED LINER NOTES

まずは収録曲、パーソナル、簡単な曲目紹介を行う。

1.シー・シー・シー C-C-C (Words By K.Yasui / Music By K.Kase)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

この作品集はいきなりGS(グループサウンズ)のカバーで始まる。いつになく橋本のギターがもたついているものの基本的には原曲に忠実な構成となっている。だがさすがに若き日の沢田研二のマネは出来ない、ということでボーカルとサイドギターだけがパンク風になっている無茶苦茶なカバーである。尚、“シー・シー・シー”というコーラスにおいて森岡が様々な音程で歌って遊んでいる。

2.真夜中のカウボーイ Midnight Cowboy  (Words By T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Organ / Synthsizer / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

RUGのオリジナルナンバー(以降カバー→オリジナル→カバー...という順番で進んでいく)だが、橋本のソングライティングも冴え渡るさすがRUGという力作。ステレオで迫るエレキギター、軽快な流れを下支えする上南のベース、森岡を中心としたシンプルながら当を得たコーラスワーク... 橋本の素晴らしいギターソロも含めベストトラックのひとつと言えるだろう。

3.岬めぐり Going Round The Cape  (Words By M.Yamagami / Music By K.Yamamoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Acoustic Guitar / Recorder / Strings / Synthsizer / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

70年代のフォークソングを代表する作品のカバー。3箇所入る笛の演奏を当初後藤雄二(クラリネット)に依頼していたが諸般の事情で協力が得られず山口の拙いリコーダーで代用せざるを得なかった。覇気のないボーカルも含め改善の余地の多いカバーである。しかし原曲にはないコーラスは森岡を中心にオリジナリティが溢れ聴き応えがある。

4.未来の君へ Future Lady  (Words By T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar / Harp (Solo)
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar / Mandolin
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Piano / Synthsizer / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

上南の弾くベースに導かれて展開するスローテンポな作品。基本的にはフォークソングの流れを持っているがニューミュージックの気配も感じさせる不思議な作品。終盤登場する森岡のハープも一辺倒なフォークとは異なる独特のメロディを奏でて感動的。尚、この曲では橋本が初めてマンドリンを演奏、収録しておりそういう点でも貴重である。

5.襟裳岬 Cape Erimo (Words By O.Okamoto / Music By T.Yoshida)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Organ / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

森進一の国民的ヒット曲であるが、ここで聴かれるのは吉田拓郎バージョンが基調であろう。ボブ・ディラン風のオルガンとエレキギターのジャン弾きがいかにもフォークソング的だが、バックでうねる上南のベースが曲に力強さを与えている。また森岡の素晴らしい歌唱、そしてコーラスはいかにもRUG的である。橋本のとってつけたようなギターソロも同様だ。

6.閉ざされた街 Closed City (Words and Music By T.Yamaguti)
T.Yamaguti .... Vocal / Acoustic Guitar / Strings / Digital Sax (Solo) / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

いかにも山口が書きそうなオリジナル曲。荒井由美あたりを筆頭としたニューミュージックを再現するイメージか。しかしなぜかティンパニが鳴り響き、間に合わせ的なデジタル・サックスのソロが入るなど、いかにもオーバープロデュースであるあたりも山口的。しかし曲の流れを壊さず寄り添うようにフレーズを重ねていく上南のベースはさすがである。

7.悪女 Bad Woman (Words and Music By M.Namajima)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Organ / Percussion
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

中島みゆきの大ヒット曲のカバー。しかし歌詞の中身はともかくオールディーズ風で爽やかな原曲に対しこちらはミディアムテンポで展開するロックに仕上げている。橋本が器用なギターを聴かせてくれるなどこれはこれで悪くないカバーである。尚、原曲で“あなた”と歌われる部分がここでは“あんた”と歌われるが、故意なのか単なる間違いなのかは定かではない。

8.銀色の雨 Silver Rain (Words By T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Piano / Organ / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

橋本がよく自身のルーツは歌謡曲だ、と発言するがそれを強く感じさせるオリジナル。まさに“歌謡ロック”とはこの曲のことである。アップダウンの激しいベースライン、再びステレオで迫るエレキギター、特徴的なコーラスなどRUGのスタイルにもうまくはまっている一曲である。尚、この曲は山口が曲をつけるために用意された歌詞を橋本が横取りして誕生した(「閉ざされた街」は元々「銀色の雨」だった)とのこと。

9.港のヨーコヨコハマヨコスカ Bayside Yoko Yokohama Yokosuka (Words By Y.Agi / Music By R.Uzaki)
M.Morioka .... Talking / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Organ / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

非常に有名な作品のカバーに挑戦しているが、語りを担当する森岡の名演技によりRUGオリジナルと言ってもよい仕上がりになっている。上南のベースを中心としたバックの演奏もかなりタイトで、橋本のギターも激しくぶっ飛んでおり素晴らしい。尚、最後の港の効果音はRUG3人が肉声で作っているらしい。

10.木の机と三角定規 Woody Desk And Triangle (Words By T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar / Mouse Whistle
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo) / Mandolin
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Piano / Strings / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

実はこの曲と「真夜中のカウボーイ」は元々英語で歌詞が書かれていたものを今回の企画に沿って山口が日本語歌詞に書き換えたという経緯がある。この曲自体は70年代のフォークソング的雰囲気が横溢しており、特にイントロとエンディングに登場するテーマメロディに漂う哀愁は感動的で橋本の高い才能が垣間見える作品である。

11.銭形平次 Detective Heiji Zenigata (Words By S.Sekikawa / Music By S.Ando)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Organ / Rhythm Programming
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
M.Johnan .... Bass

なかなか笑わせるカバーである。原曲をさらにパワフルにした歌謡ブギーといった趣の仕上がりになっている。ランニングする上南のベース、そして激しくソロを弾きまくる橋本のギターと聴き所も多数。しかしなぜ70年代の日本のポップスをカバーする、という企画にこの曲が登場したのか今ひとつ理解できないのが正直なところである。

12.ひとりギターを弾いてると When I'm Playing The Guitar Alone (Words By Y.Goto / Music By A.Hashimoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Acoustic Guitar / Piano / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar / Harp (Solo)
M.Johnan .... Bass

爽やかなフォークソング風オリジナル。後藤雄二が提供したピュアな歌詞に見事にマッチした曲をつけた橋本の天才ぶりが伺える。アレンジ的には井上陽水の「夢の中へ」、アリスの「冬の稲妻」あたりを思い起こさせるもの。尚、森岡による途中のハープのソロはビートルズか?と思わせる印象的なものでこの曲の聴き所と言える。

13.なごり雪 Remaining Snow (Words and Music By S.Ise)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Organ / Strings / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

これもフォーク時代の代表的作品のカバー。全体の演奏、コーラスなど極力シンプルな内容でまとめボーカルを引き立てており、それに応えるように森岡の歌唱力が光る。しかし途中で登場するいかにもとってつけたようなオルガン主体の間奏だけは意図がよくわからない。

14.閉ざされた街に銀色の雨 Silver Rain On Closed City (Words and Music By T.Yamaguti)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Acoustic Guitar / Electric Piano / Strings / Percussion
M.Johnan .... Bass

先に登場する「閉ざされた街」とは基本的に同じ曲である(わずか一部分のみ歌詞が違うだけ)。要するに同一作品2バージョンと考えれば分かり易い。こちらのアレンジはボサノバ風であるが過去の経験も生かされすっかり板に付いており安心して聴ける。森岡のボーカルも変幻自在で素晴らしい。

15.心の旅 Inner Travel (Words and Music By K.Zaitsu)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Piano / Strings / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

チューリップとRUGには非常に近いものが感じられるのでRUGがこの曲をカバーするのはある意味必然と言える。全体の演奏、コーラスなどは比較的原曲に忠実にカバーしている。しかし全体の演奏はひずんだエレキギターと力強いベースによりブリティッシュロックの雰囲気が感じられる。特に橋本のギターは独自の解釈が感じられて潔い。

16.僕らの時代 Our Age (Words By T.Yamaguti / Music By M.Morioka)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar / Kazoo
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Slide)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Acoustic Guitar / Banjo Section / Strings / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

日本語で歌われる堅田サウンドは本邦初公開となる。軽快なフォーク/カントリーナンバーだがボーカルは恐らく森岡しか歌えないだろう、と思われる独特の節回しである。オープニングとエンディングに“RUGの秘密兵器”と言われるカズーが登場する他、随所に橋本がスライドギターを入れているの特徴的。硬質な音で演奏される上南のベースも印象的。

17.氷の世界 World Of Ice  (Words and Music By Y.Inoue)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar / Harp (Solo)
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Clavinet / Brass Section / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

井上陽水のカバーである。原曲はかなりファンキーで歯切れのよいアレンジであったが、こちらは激しいギターのカッティングでハードなイメージを演出している。森岡がハイトーンのボーカルおよびハープソロで大奮闘している。ちょっとどたばたする印象は拭えないもののRUGならではのヘヴィな演奏として記憶に残るものであろう。

18.ゆううつな日々 So Blue Days (Words and Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Strings / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

橋本自身が中学生時代に書いたという、そのピュアな感性が輝く不朽の名曲のセルフカバー。ここでも森岡の高い歌唱力が曲を引き締めている。橋本自身はアコースティックギターを弾いており目の醒めるようなギターソロを披露。キーボード系楽器のアレンジ、どっしりとしたベースのメロディ、森岡のダブルボーカルによるコーラスなど作品集の最後を締めくくるに相応しい一曲である。

 Let's Play Tracks Of Album ...



Single Release With "Rakuto Graffiti" WHAT IS ? CONTENTS SINGLE RELEASE MAKING PROCESS ABOUT COVER SONGS UNRELEASED LINER NOTES

作品集「洛東グラフィティ」リリースと同時に、シングル「真夜中のカウボーイ」もリリースされた。以降にそちらの簡単な紹介も。

S-1.真夜中のカウボーイ Midnight Cowboy (Words By T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Organ / Synthsizer / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

作品集のリリースにあわせてシングルのリリースも行われたが、この「真夜中のカウボーイ」は英語バージョンでしかも森岡が歌っている。元々英語で歌詞が書かれていたのを今回の企画にあわせて日本語歌詞に書き換えたらしいのでふたつを聴き比べるのも一興か。尚、橋本のギターソロも作品集とは違うテイクが使われている模様。

S-2.木の机と三角定規 Woody Desk And Triangle (Words By T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Piano / Strings / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo) / Mandolin
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

「真夜中のカウボーイ」とは逆に山口がボーカルを担当する英語バージョンを収録。作品集収録バージョンのオープニングは口笛から入り徐々に森岡のハミングとクロスフェイドするが、こちらは山口のハミングと口笛が併走する形になっているなど細かい違いがある。しかしいずれにしても味わい深い作品であることは間違いない。

S-3.ゆううつな日々 So Blue Days (Words and Music By A.Hashimoto)
A.Hashimoto .... Vocal / Electric and Acoustic Guitar

1978年頃、橋本のソロ名義で「貝がらの詩」とカップリングでリリースされたオリジナルバージョンを収録。アコースティックギターの繊細なバッキングに独特のエレキギターのソロが重なり印象深い。橋本のボーカルも木訥だが味がある。改めて橋本の天才ぶりを再確認することが出来る貴重な記録である。

Making Process Of "Rakuto Graffiti" WHAT IS ? CONTENTS SINGLE RELEASE MAKING PROCESS ABOUT COVER SONGS UNRELEASED LINER NOTES

またしてもユニークな新作『洛東グラフィティ』誕生の軌跡について。

2009/12/27
この日ベンガラというジンギスカンの店で“小忘年会”と称する会合が公式メンバー3人だけで開催された。基本的にはただの飲み会なのだが、2010年の活動方針に関する大まじめな協議が行われた結果“70年代の日本のポップスをカバーする&その時代をイメージした新曲、しかも歌詞は日本語!”という基本方針が決定された。またこの時点で森岡が歌う「港のヨーコヨコハマヨコスカ」は確定?ということになる。

2010/01/10
橋本と山口、強力サポートメンバーでベーシストの上南雅博の家にお年始に行く。すでに関係者には2010年の基本方針は発表済だったが、この日上南から推薦曲としてタイガースの「廃墟の鳩」か「シー・シー・シー」の希望があがった。これを受けて後日関係者専用サイト(通称:RAKUGRAサイト)が立ち上げられ各自の推薦曲をYou Tubeの動画で確認できるようになった。また山口はこの頃から新作に向けて日本語の歌詞を書き始めたようである。

2010/01/30
新作用のカバー曲探しが白熱する中、山口より3曲の日本語歌詞がメールで配信された。
■僕らの時代 ... いわゆる郷愁ソングということで少年時代はいい時代だったなー、と比較的若者が思いを馳せる設定で書いてみました。なんか平板でもうひとつふたつ、という感じです
■未来の君へ ... 70年代から見た未来のイメージを絡めた軽いラブソング(今あるもんばっかやんけ!って、今はすでに21世紀ですからね)。それにしても深みのない歌詞です(って、従来の英語歌詞だって似たりよったりですけどね)
■銀色の雨 ... フォークソング的暗さを持つ失恋ソング。やっぱりRUGに“雨”はつきものということで。でもなんだか野暮ったい歌詞ですなあ...

曲作りの割り振りは「僕らの時代」→ 森岡、「未来の君へ」→ 橋本、「銀色の雨」→ 山口に決定。

2010/02/20
山科スタジオにて橋本と山口が新曲を発表する。橋本が「未来の君へ」と「銀色の雨」、山口も「銀色の雨」??? この歌詞を見た橋本が割り振りの指示にもかかわらず衝動的に曲をつけてしまったため同じ歌詞にふたつの曲が付くという異常事態に... 尚、そんな騒ぎのよそにこの日橋本は“アーチストもリスナーも質が大幅低下している現代において70年代のエッセンスを復活させることは重要なミッション”と述べている。

2010/02/25
貴重な音源と称してその昔橋本が自作自演している「ゆううつな日々」の音源と歌詞をメールで配信。そしてこの曲は半強制的に採用が決定した。一方「銀色の雨」は橋本が書いた曲の方が合っている、と山口が辞退。自分の書いた曲用に新たに「閉ざされた街」という歌詞を書きあげた。(この“貴重な音源配信事件”はその腹いせという説もある)

2010/03/21
この日“プレ桜の会”と称して飲み会が開催され、しばらく不参加が続いていた森岡も久々に登場。またこの日は飲みのあと新作に向けてカラオケへ繰り出し大いに気分を盛り上げるとともに、新作のカバー選曲やボーカル割のヒントにもなったようである。

2010/04/03
新作で採用するカバー曲がなかなか決まらないためついに投票が行われる(この時点で決まっていたのは「港のヨーコヨコハマヨコスカ」と「岬めぐり」のみ)。第一回投票では何曲かの中から投票で「シー・シー・シー」と「氷の世界」、さらに上南の追加投票で「襟裳岬」の採用が決定。さらに上南のこれを受けて重い腰を上げた山口が下音作成を開始した模様。

2010/04/11
前作で初のフル参加を果たした上南はここまで静観の構えだった。しかしこの日メールにて意思表示。“基本的には全曲参加したいと思います。でも何か不思議な感じですね。日本語は。”...

2010/04/21
カバー曲に関する第二回投票が行われていたが「いちご白書はもう一度」「泳げたいやき君」「心の旅」がタイ・スコア... 最終的に上南に決定権が与えられその結果「心の旅」が選出される。

2010/05/02
疏水沿いでバーベーQパーティを行うという“新緑の会”が開催される。この段階で橋本がボーカル割を決定、森岡・山口両ボーカリストにボーカルキーの決定を呼びかけた。尚、この時点ではまだ「僕らの時代」は発表されていなかったが、森岡によると“演歌になるかもしれん”とのことだった。またこの日森岡は「氷の世界」録音に向けてBbのハープを購入したと報告している。

2010/06/05
しかし6月になっても森岡の多忙が解消されないため、仕方なく橋本のサポートを受けて山口が単独で新作の録音作業を開始する。この日は「シー・シー・シー」「真夜中のカウボーイ」「岬めぐり」「閉ざされた街」「銀色の雨」「心の旅」のボーカルとギターのバッキングを録音完了。

2010/06/27
この日は演奏隊と称して上南と橋本がベースとギターの同時録音を実施。「シー・シー・シー」「岬めぐり」「心の旅」の3曲をクリア。尚、この日上南は新しいベースギター持参で登場。

2010/07/14
多忙を極める森岡だったがこの日新曲「僕らの時代」をメールで配信。結局演歌はやめてフォーク/カントリーソングになったらしい。

2010/07/17
今後の計画を打ち合わせるべくサポートメンバー上南、多忙の森岡も参加し“ビアホールの会”が開催された(サブタイトルは“堅田支部=森岡を励ます会”)。森岡に負担をかけずいかに録音作業を推進するかがこの日のテーマであったが、橋本からは“安心せよ。新作は間違いなく年内に完成する”という予言が行われた。しかしその根拠は全く不明である。

2010/07/19
演奏隊(上南のベース&橋本のギター)が録音を実施。「閉ざされた街」「銀色の雨」を完了。またこの日橋本が新曲として「ひとりギターを弾いてると」を発表。これは7/5にライター後藤雄二から送られてきた歌詞に曲をつけたものである。

2010/08/07
8月になったが依然多忙の森岡...。仕方なく再び橋本のサポートを得て山口が単独の録音を実施。「ひとりギターを弾いてると」「銭形平次」のボーカル&ギターを録音。尚、「銭形平次」はどさくさに紛れて山口が採用曲に潜り込ませてしまったものである。また一度アルペジオで録音されたものの“合わん! やり直しや!”という橋本の希望で「岬めぐり」のエレキギターの録り直しも行われる。

2010/08/15
関係者が一同に会する“お盆の会”が開催される。席上新作の進捗状況が報告され新たにデザイナー奥井弘から「なごり雪」、ライター後藤から「悪女」が推薦された。また二次会は上南邸で開催されたが、この時上南が新たにリッケンバッカーのベースギターを購入したことが発覚。

2010/08/28
演奏隊(上南のベース&橋本のギター)が録音を実施。「真夜中のカウボーイ」「ひとりギターを弾いていると」を完了。尚、上南はこの日リッケンバッカーのベースギターで録音に臨んだ。また最終的にボサノババージョンの「閉ざされた街」が採用となり新作収録曲は全18曲に決定。

2010/09/18
9月の声を聞いてようやく森岡が登場、一気呵成の録音作業が実施される。「未来の君へ」「襟裳岬」「なごり雪」「ゆううつな日々」のボーカル&ギター、および「シー・シー・シー」「銀色の雨」「銭形平次」「心の旅」のギターを録音。さらに山口がボーカル、森岡がギターのバッキングで「悪女」も録音完了。この日で作業は大幅に進捗、コーラス待(コーラスを入れれば完成する)曲も0→4曲へ...。

2010/10/02
とは言うものの依然積み残しが多い状況の中、残された3ヶ月で以下に録音を完了するかを協議すべく会合がもたれRUG3名+上南が参加(尚、名称“プチ会議”だったが場所は居酒屋?)。事務局よりかなり詳細な資料が提示されかなり厳しいながらもスケジュールが策定される。ちなみに年内完成をぶちあげていた橋本は“よっしゃ、よっしゃ。これで何とかなりそうや”と喜んだという...。

2010/10/17
演奏隊(上南のベース&橋本のギター)が録音を実施。「未来の君へ」「銭形平次」「ゆううつな日々」が完了(うち2曲がコーラス待へ)。また一度録音されたもののミキシング段階で誤って消えてしまった「岬めぐり」のエレキギターの録り直し(橋本)も行われる。

2010/11/03
“プチ会議”で決定したスケジュールにのっとり11/7に森岡の第二回録音が予定されていたが、しばらく音沙汰無かった森岡が突如連絡してきて「僕らの時代」の下音修正を要請、事務局はてんやわんやとなる。一方こちらも音沙汰のなかったデザイナー奥井らついにジャケット案がメールで配信されてくる。最初はA〜Cの3案であったがコメントを送ると夜さらにうち2案の修正案+D案が届く。

2010/11/06
奥井のジャケット案に後押しされつつ演奏隊(上南のベース&橋本のギター)が録音を実施。「襟裳岬」「悪女」「なごり雪」「港のヨーコヨコハマヨコスカ」を完了(うち3曲がコーラス待へ)。これで演奏隊の残りは4曲。また翌日には森岡が登場し大躍進の予定...。

2010/11/07
集合時間直前に森岡から連絡あり!“頭が痛い... 自己フェイント弾や... 休ませてくれ〜”... かくしてこの日の録音は中止となり、早くも年内完成に黄信号が点灯...。

2010/11/17
しかし何とか森岡の録音を推進せねば!という脅迫観念にかられる事務局。しかしこの日山科スタジオは給湯器の入替工事で使用できない。かくしてひねり出した妙案が上南に無理を言って上南邸を借りての録音作業。上南には麦焼酎1本で了解をとりつけ、全面的に森岡主体の録音を実施。「港のヨーコヨコハマヨコスカ」「木の机と三角定規」「僕らの時代」「氷の世界」のボーカル&ギター、「僕らの時代」のカズー、「氷の世界」のハープ、「真夜中のカウボーイ」「岬めぐり」「閉ざされた街」「ひとりギターを弾いてると」のギターを一気に録音。前回の遅れを見事挽回した上に年内完成への希望を大いに膨らませてくれた!

2010/11/28
前回の森岡の大健闘によりこの日は当初予定(演奏隊の録音)を延期しカバー曲のコーラス録音と森岡積み残し分消化に全力をあげることになった。課題曲はまずカバー9曲(「シー・シー・シー」「岬めぐり」「襟裳岬」「悪女」「港のヨーコヨコハマヨコスカ」「銭形平次」「なごり雪」「心の旅」「氷の世界」)、それに加えて森岡の残パート、実質手つかずだった「閉ざされた街に銀色の雨」のボーカルとギター、キーの違うハープで職人芸を披露した「未来の君へ」、さらに「真夜中のカウボーイ」の英語バージョン・ボーカル... 準備が間に合わず次回繰り越しとなった「ひとりギターを弾いてると」以外のコーラスを除く森岡パートは全て完了となるとともにこの日で一気に8曲が完成となった。尚、今回の新作の録音作業で橋本、森岡、山口の三人が揃ったのはこの日が初めてである...。

2010/12/11
事務局に“不灰取月”と名乗る怪人物から以下のメールがはいった...。
今になって、気が付いてしまったのだが「ひとりギターを弾いてると」の最初の辺りのボーカルだが、風を嵐と歌っていないか? 「君は蝶とたわむれながら、嵐の中を走っていったね」... 叩き売りのオッサンなら青筋たてて、冷や汗流しながら、「わからへん、わからへん」と言うと思うが、参考まで。この期に及んで要らんことを言った。さらば。

2010/12/12
なんとかコーラスを全て録り終えよう!という気合いの元に再び橋本、森岡、山口が揃い踏みで臨んだこの日の録音は「真夜中のカウボーイ」「未来の君へ」「閉ざされた街」「銀色の雨」「木の机と三角定規」「閉ざされた街に銀色の雨」「僕らの時代」まで消化したが、残念ながら2曲が積み残しとなってしまった。しかし「ひとりギターを弾いてると」のジョン・レノンばりのハープの録音をもって森岡の楽器パートは全て完了。演奏については橋本と上南の奮闘が期待される段階となった。また完成曲は+3の合計11曲と2ケタに到達...。尚、昨日の歌詞の間違いについては協議の結果、不問に付すことに決定...。

2010/12/18
橋本、森岡、山口が三度集まり前回積み残しとなった「ひとりギターを弾いてると」「ゆううつな日々」のコーラス、および本邦初公開となる橋本がマンドリンを弾く「未来の君へ」「木の机と三角定規」を録音。録音自体は比較的短時間で終了し3曲が新たに完成、残すは4曲のギター&ベース・パートを残すのみに漕ぎ着けた。尚、この日マンドリンを演奏した橋本は“チューニングがやたら狂う”“専用のピックが弾きにくい”などと文句を述べた上で“次回上南から新しい楽器をすすめられたら無視するようにしたい”と述べた(マンドリンは上南が橋本に貸し与えたとのこと...)。

2010/12/23
しばらくタイまで旅に出ていた上南も帰国、満を持して演奏隊(上南のベース&橋本のギター)が録音を再開。尚、この日の録音が全てクリア出来ると新作も完成という状況であり、橋本がアコースティックギターのソロをとる「閉ざされた街に銀色の雨」を皮切りに「木の机と三角定規」「僕らの時代」と続き最後は二人が口を揃えて“最大の難関!”と訴える「氷の世界」まで何とか片付け、大方半年に及んだ録音作業が完結となった。12/29、忘年会に先立ちCD制作が実施される予定でこれで晴れて新作「洛東グラフィティ」が世に送り出されることとなった。

About Cover Songs From "Rakuto Graffiti" WHAT IS ? CONTENTS SINGLE RELEASE MAKING PROCESS ABOUT COVER SONGS UNRELEASED LINER NOTES

ここでは『洛東グラフィティ』に収録されたカバー曲について述べる。

■「港のヨーコヨコハマヨコスカ」
ダウン・タウン・ブギウギ・バンドが1975年に発表した大ヒット曲。「スモーキング・ブギ」の大ヒットを受けて続くシングルとして発売されたのは「カッコマン・ブギ」だったが今となってはそのB面だったこの曲の方が有名である。阿木燿子が書いた歌詞に感激した宇崎竜童は気合いを入れて曲を付けはじめたが、結果植木等の「スーダラ節」みたいな曲になってしまい、改めてアメリカの語り風ブルースを参考にした語り主体のものに書き換えたという話があるが真相は不明。阿木はこの曲が自分の作詞家デビュー作だと語っているが、大作詞家・阿久悠は“あんた、あの娘のなんなのさ”というセリフについて“衝撃的だった”と述べている。この曲は1975年のヒットチャートで5週連続1位を記録、同年の日本レコード大賞では企画賞を受賞。そしてダウンタウン・ブギ・ウギ・バンドはこの曲で紅白歌合戦に初出場を果たした。

■「岬めぐり」
1974年のいかにもフォークソングという感じの大ヒット曲。ソルティシュガーのメンバーだった山本コウタローが新たに結成したグループ、ウィークエンド名義で発表。作詞は山上路夫、作曲は山本。曲名の“岬”は実は横須賀の“三崎”を指すようで、その証拠に京急三崎口駅の電車到着案内チャイムにこの曲が採用されたことがある。尚、ソルティシュガーと言えば「走れコウタロー」が有名だがこの“コウタロー”は山本のことを指す。また山本は現在大学教授でもあり人権問題に関するミニライブ付講演を全国で行っているという(2010年12月3日には京都市山科区にある東部文化会館で講演を行っている)。一方作詞を担当している山上の夫人はやはり作詞家でチリアーノの「私だけの十字架」(TVドラマ「特捜最前線」のテーマ曲)などを手掛けた尾中美千絵である。

■「シー・シー・シー」
GS(グループ・サウンズ)の雄、タイガースが1968年8月に発表したヒット曲。安井かずみ作詞、ワイルドワンズの加瀬邦彦が作曲したナンバーで演奏やコーラスにおいてビートルズを強く意識した作風は当時としては画期的であった。尚、この曲は「銀河のロマンス/花の首飾り」に続くシングル盤として発表された。当時のメンバーは沢田研二(ボーカル)、岸部修三(ベース 現・一徳)、加橋かつみ(ギター)、森本太郎(ギター)、瞳みのる(ドラムス)。岸部シローが参加するのはこの曲のヒットの後の1969年からである。1968年8月12日、日本初のスタジアム・ライブとなる“ザ・タイガース・ショー〜真夏の夜の祭典”を後楽園球場で開催。11月25日にはトータル・コンセプト作品集「ヒューマン・ルネッサンス」を発売し、社会現象とまでいわれた爆発的人気の中でタイガースはGSブームの頂点を極めた。

■「氷の世界」
井上陽水が同名作品集に収録した作品でシングルとしてはリリースされていない。フォークソング全盛だった当時としてはファンキーでブラスが入るなど非常に斬新なアレンジが施されているが、それもそのはず作品集自体ロンドンで録音されこの曲のアレンジはローリング・ストーンズのアレンジを担当した実績を持つニック・ハリスンに依頼されたという。また1973年のリリースから2年後、このアルバムは史上初の100万枚以上の売上を記録したがこれは現代の800〜1000万枚に換算しうる数字だったという。事実井上の地元、福岡市天神にあるレコード店、日本楽器天神店ではこの作品集を求めて朝の8時から客が殺到、シャッターが降りたままの店の前で4人の店員が段ボール箱から直接即売を行った、という伝説が残っている。尚、作品集には井上初の大ヒット曲「心もよう」が収録されている他、忌野清志郎と共作した曲があったり、高中正義や細野晴臣が参加している曲が含まれる。また井上はこの2年後の1975年、吉田拓郎、泉谷しげる、小室等とともにフォーライフ・レコードを設立する。

■「襟裳岬」
1974年、演歌歌手である森進一の歌で大ヒット、その年のレコード大賞と日本歌謡大賞を総なめにし紅白歌合戦ではトリで森がこの歌を歌った。大らかな北の大地を歌にした今となっては国民的愛唱歌である。作詞:岡本おさみ、作曲:吉田拓郎というフォーク全盛期を代表する黄金コンビの作品だったことも大きな話題を呼んだが、これは日本ビクターの創立五十周年企画として発売された一連の楽曲のひとつであった。たまたまプロデュースを担当した高橋卓士(元ソルティシュガーのメンバー)が「森さんみたいな人に書いてみたい」と吉田が言っていることを聞きつけこのコラボが実現したという。演歌系とフォーク/ニューミュージック系コラボの最初の例としても記憶され、森は後に大瀧詠一作の「冬のリヴィエラ」もヒットさせている。尚、吉田自身は1974年の作品集「今はまだ人生を語らず」でセルフカバーしているが何故かこの作品は名作であるにもかかわらず現在CD化されていない。理由は収録の「ペニーレインでバーボンを」に差別用語が含まれているためとのこと。

■「心の旅」
チューリップの3枚目のシングルとして彼らにとって最大のヒットを記録した作品。この曲を筆頭に「青春の影」「サボテンの花」などの名曲を続々生み出した彼らだが最初の2枚のシングルは鳴かず飛ばずで3枚目が売れなかったら出身地の福岡に帰ろう、という話になっていたという。尚、ボーカルは姫野達也が担当しているが本来は作者である財津和夫がう予定だった。しかし関係者から“財津より甘い声が魅力の姫野に歌わせよう”ということで変更になった模様。財津自身はかなり複雑な心境だったようだが、財津が歌っていると勘違いしているリスナーは少なくない。また当初3枚目のシングルには後に作品集「心の旅」収録の一曲となる「風よ」という曲が有力候補だったらしい。この曲にも小柳ルミ子をはじめ多くのカバーが存在するがもっともヒットを記録したカバーは歌手で俳優の吉田栄作が1990年に発表したものであろう。

■「銭形平次」
1966年5月〜1984年4月まで毎週水曜夜8時から放映されていた連続テレビ時代劇の主題歌。歌っているのは舟木一夫で主役の大川橋蔵と共にこの主題歌も一貫して使用されたがドラマの音楽担当が交代した時に現代的でビートの利いたアレンジに変更されている。尚、野村胡堂の「銭形平次捕物控」が原作のこのドラマは日本のドラマ史上最長の888回の放映を記録したためギネスブックに認定されているという。ちなみに第二位は「暴れん坊将軍」で832回を記録しているとのことだが連続ドラマではないので「銭形平次」を越える作品が出ることはもうないだろう。長寿番組だけあってスタート当初は白黒作品だったとか、平次の女房お静役は香山美子だと思っている人が多いがスタート当初は八千草薫が演じていたとか、同じスタッフ、キャストで劇場映画版が作られたことがあるなど様々なエピソードが残っている。

■「悪女」
フォークシンガー、中島みゆきの代表的なヒット曲であり80万枚のセールスを記録したと言われている作品。1981年、彼女の11枚目のシングルとしてリリースされたもので「わかれうた」(1977年)についでオリコン・チャートで1位を獲得。この曲の歌詞では、交際中だが浮気にはしる男性とそれを知り自ら嫌われるよう仕向ける女性の様子を表現しており、爽やかな曲調とは裏腹に中島みゆきワールド全開という感じである。尚、中島は“歌詞に女の人の名前を入れるのが好きだった”という理由でこの曲の歌詞にもマリコという女性を登場させている。またこの曲は作品集「寒水魚」に収録されているが、こちらの方はテンポもゆっくりでけだるそうなボーカルがさらに情念を感じさせる。ちなみにこの曲にはクレモンティーヌや中森明菜の他、多数のカバーが存在する。

■「なごり雪」
かぐや姫の妹的存在であったフォークシンガー、イルカが1975年に発表した大ヒット曲。曲を手掛けたのはかぐや姫、後に風のメンバーとして活躍した伊勢正三。「なごり雪」は1974年、かぐや姫の作品集「三階建の詩」に収録されておりイルカのバージョンはカバーということになる。この曲は発表当時55万枚、累計売上は80万枚という大ヒットになり、日本の早春を感じさせる歌の一つとしても歌い継がれている。また2002年にはこの歌の内容を発展させた映画「なごり雪」が大林宣彦監督によって制作されており、伊勢自身がセルフカバーで録音、シングル発売も行われた。また伊勢は後に太田裕美、元ガロの大野真澄と組んだ“なごみーず”名義でも録音、伊勢のギターで太田裕美が歌っている。他に福山雅治や松浦亜弥、坂本冬美、嘉門達夫(ただし替え歌「なごり寿司」)など無数のカバーが存在する70年代フォークソングを代表する一曲。

Unreleased Liner Notes Of "Rakuto Graffiti" WHAT IS ? CONTENTS SINGLE RELEASE MAKING PROCESS ABOUT COVER SONGS UNRELEASED LINER NOTES

以下はCDに添付されたものとは若干異なる別バージョンのライナーノーツである。こちらは作品集自体がRUGによるカバー集、という設定で書かれている。尚、各曲の解説はCD添付のライナーノーツ本文の続きとして読んでいただきたい。

1.シー・シー・シー C-C-C
RUGのカバーは小学校時代タイガースのファンだったという上南の推薦で採用されることになったが、ノイジーなギターに乗ってパンクなボーカルが炸裂する無茶苦茶なもの。ボーカルを担当した山口が“沢田研二のようには歌えん。すまん”といってこのアレンジで押し切ったというのがもっぱらの噂である。確かにオープニング・ナンバーとしてはインパクトはあるが...。

2.真夜中のカウボーイ Midnight Cowboy
RUGによるカバーはオリジナルを比較的忠実にコピーしているが、どうしても高温多湿な京都盆地の影響か彼らのギターサウンドはややウェットである。しかしそんな中でも上南のロックンロールの利いたベースにのって聴かせる橋本のスリリングなギターソロはいかにもRUGらしい演奏になっており大きな聴き所となっている。

3.岬めぐり Going Round The Cape
RUGのカバーは比較的原曲に近いものの、後藤雄二が録音を辞退したためクラリネットが入れられず山口が拙いリコーダーの演奏で茶を濁しているのが惜しまれる。また一般的には森岡が歌って様になる曲と思われるがボーカル割を決定した橋本はなぜか山口を指定した。いろいろと疑問が残るカバーである。

4.未来の君へ Future Lady
RUGのカバーは森岡が少しパンクな雰囲気を漂わせながら歌っているのがユニーク。これはかなりタイトな日程で録音を行ったために少し疲れ気味であるのが原因と言われているが事実かどうかは未確認。また森岡のハープソロは敢えてキーの異なるハープを使って録音されたもので非常に味わい深い仕上がりとなっている。一方橋本はこの曲で初めてマンドリンを演奏したという。

5.襟裳岬 Cape Erimo
RUGのカバーは「今はまだ人生を語らず」という作品集に収められた吉田拓郎バージョンを基調にしているようである。しかし森岡のボーカルは若干こぶしがまわったりしていて演歌とフォークの双方の良さをバランス良く再現しており、さすが稀代のボーカリストである。また上南のベースが独特のうねりを出していておもしろい。

6.閉ざされた街 Closed Ciry
RUGのカバーは比較的原曲に忠実な演奏となっている。静かなエレキギターのバッキング、落ち着いたベースの演奏など大人びた雰囲気が漂う。しかし突然ティンパニが連打されたり、山口のデジタルサックスによる取って付けたようなソロが入るなど奇をてらった訳ではないはずだが、結果としてかえって変化の乏しい演奏になってしまっているのが残念だ。

7.悪女 Badwoman
RUG強力サポーターの一人、ライター後藤の推薦で取り上げられたというRUGのカバーはどちらかというとアルバムバージョンを基調にしているように見えるが、実体は山口の酔っぱらったようなボーカルが入るかなり安易な構成のロック仕立てとなっている。しかし橋本のハードなギター、上南のワイルドなベースが映える演奏である。

8.銀色の雨 Silver Rain
橋本が奏でるハードなギターのリフをはじめとしてRUGのカバーは原曲に忠実なアレンジとなっている。上南の細かなベースランニングなど聴き所も多く、「銀色の雨」という言葉に相応しい演奏と言っても過言ではないだろう。尚、録音にあたって山口はソリッドな雰囲気を演出するためボーカルにエフェクトをかけており、それなりの効果を曲に与えている。

9.港のヨーコヨコハマヨコスカ Bayside Yoko Yokohama Yokosuka
RUGのカバーは演奏についてはかなり原曲に忠実な構成となっている。しかしボーカル(というか語り)の方は森岡の個性が大爆発、RUGオリジナルの“港のヨーコヨコハマヨコスカ”が誕生した。尚、各セリフのバッキングは長さがまちまちで録音時にはタイミングを計るため回数のカウントをバックに入れてそれに合わせて歌や演奏を録音した、という苦労があったらしい。

10.木の机と三角定規 Woody Desk And Triangle
こういう感動的な曲は森岡の出番である。RUGのカバーはあの印象深いメロディを森岡がルールールーのハミングと口笛で感動的に表現している。また橋本がシンプルながらも叙情的なソロをとるとともに、ここでもマンドリンを演奏、一種独特の世界を垣間見せてくれる。

11.銭形平次 Detective Heiji Zenigata
RUGのカバーはオリジナルをさらに激しいアレンジに変更した歌謡ブギーとしか言いようがない代物で上南の軽快にランニングするベースに乗って橋本が水を得た魚の如くギターを弾きまくっているのが印象深い。尚、どうしてこの曲が採用されか、という点については“まさに70年代の最中おばあちゃんと一緒にTVで見てた”(山口談)のがその理由のようである。

12.ひとりギターを弾いてると I'm Playing The Guitar Alone
とにかくアコースティックギターのジャン弾きが爽やかな作品でRUGのカバーも特にその点に留意したアレンジとなっている。一方ソロパートはギターではなく森岡のハープを採用。ジョン・レノンもびっくりの素晴らしいソロと橋本がエレキギターで奏でるテーマ的メロディとの対比もまた鮮やか。尚、このカバーでは物議を醸した歌詞の間違いは敢えて是正せずそのまま歌っている。

13.なごり雪 Remaining Snow
RUGによるカバーは森岡のボーカルを前面に出して原曲に近いイメージで仕上げている。録音の際には上南が“ベース、要らんのとちゃうか?”と暴言を吐く事件もあったようだが結局堅実な演奏を聴かせてくれる。尚、当初はギターソロを入れる、という案もあったようだが最終的には山口が取って付けたようなオルガンを挿入。その結果やや場違いな格調の高さが生まれてしまった。

14.閉ざされた街に銀色の雨 Silver Rain On Closed City
RUGのカバーは3人全員がアコースティックギターを持ち上南の落ち着いたベースに導かれて演奏している。森岡のボーカルは相変わらず素晴らしく、橋本のギターソロも聴き所である。シュビドゥバのコーラスについては違和感を持つ人も多いようだが何度も聞いていると気にならなくなる。

15.心の旅 Innertravel
やはりビートルズの影響を強く受けているRUGとしては避けて通れないカバーと言える。ただし彼らのカバーは基本的な構成をそのままにしながらも歪んだギターのバッキングと重いベースラインのアレンジを施しオアシスなどのブリティッシュ・ロックの雰囲気を伝える仕上がり。また終盤弾きまくられるギターはよく聴けば橋本そのままである。

16.僕らの時代 Our Age
RUGによるカバーは軽快なカントリータッチの曲だけあって森岡が大活躍。バンジョーのようなバッキングに乗って軽妙なボーカルを聴かせるほか、イントロとエンディングではRUGの秘密兵器とも言われているカズーのソロもフューチャーされている。またここでは橋本がエレキギターでボトルネックの合いの手を入れている。

17.氷の世界 World Of Ice
RUGのカバーはかなり激しいロック色の濃い演奏となっている。ソリッドな上南のベース、随所に激しい間奏を挿入する橋本のギター、そして何より森岡のハイトーンのボーカルとハープのソロが実に素晴らしい。当初はファンキーな原曲に対抗するのは至難の業だとされていたが気力でカバーしきったあたりさすがである。

18.ゆううつな日々 So Blue Days
RUGのカバーはいわばセルフカバーと言う趣。しかし例のごとく橋本は演奏の方にまわりボーカルは森岡が担当している。上南のベースを始めとして重厚なサウンドに乗って終盤に橋本が聴かせる美しいアコースティックギターのソロは彼のベストプレイのひとつとして後世にも語り継がれるに違いない。

橋本明宣による今回の企画について一言...
最近フッと我が洛東UNDERGROUNDとはいったいどんな特徴を持ったバンドなんでしょう?と言う事を考え、一人ボーっともの思いにふけってますと“あらゆる音楽ジャンルにこだわる事なく、思い立った事を素直に音にしてしまう特異な音楽グループ”てな感じでしょうか。昔から本当にいろんな社会現象等を歌詞、曲にして過ごしてきており、それが今もまだ現在進行形な訳です。あと一つこれも昔からずーっと当たり前の様にしている事があって、これは誰が指図した訳でもなく、ごく自然にそうなったっていう事です。我々の歌詞が英語である、と言う事です。なぜなんでしょう? 確かに英語は角がなく非常になめらかな曲の運びとなります。日本語には角がありカクカクした感じになってしまいますね。やっぱ“日本語には演歌や!”“フランス語にはシャンソンや!”と言う事がよく分かります。しかし実際やってみるとなかなかいいもので、日本語でしか表現出来ない歌詞の微妙なニュアンスやストレートな思いが伝わり少々の照れを除けば大いに有効的手段であることに気ずきました。やっぱ日本人です。あっ今気がついた様な気がしますが、洛東UNDERGROUND結成当時は我々は高校生でした。自分たちの思いを表現する事に若干の照れがあったのかもしれません。それを少しオブラートに包んで表現するための手段として、本能的に英語を駆使していたのかもしれません。でも長い年月を重ね、日本語独特な微妙なニュアンスの表現も今の我々にはごく自然に使える年齢になった様な気がします。今回何の違和感も無く表現出来ているのも、自分達が本当の意味で自然体での姿をさらけだせる様になった証かもしれません。そんな洛東UNDERGROUNDをどの様に感じてもらえるか、こんな事が本当の今回の我々の目的だった様な気がします。

ご拝読、ありがとう。では中身の方もお楽しみ下さい。