What is "Original Sound Track - One Who's Adored" ? WHAT IS ? CONTENTS MAKING PROCESS NOTES FROM AUTHOR ILLUSTRATION FROM THE WORDS

『オリジナル・サウンド・トラック - 私淑の人』 ※ジャケットデザイン:奥井弘洛東UNDERGROUNDにとって2007年にリリースした「30周年記念編集盤」は、その名のとおり活動開始30周年という節目を記念した作品集であった。“彼らはこれを契機に活動を停止するのではないか?”… それは多くのファンが抱いた懸念だったが、そんなことは全くお構いなしに新作がリリースされてきた。しかしそのタイトルは『オリジナル・サウンド・トラック - 私淑の人』...。

“サントラだって? 「私淑の人」? どんな映画なんだ?”... 混乱に陥る人々を見てほくそ笑むメンバー達の姿が思い浮かぶ作品集である。そもそもそんな映画は存在しない。これは架空の映画のサントラ盤なのである。

だが“なーんだ!”などと言ってはならない。架空と言っても前作「30周年記念編集盤」のライナーノーツでついにRUGの活動に復帰したライター後藤雄二が若き日に書いた小説「私淑の人」がベースとなっている。この小説をもとに後藤自身とRUGの山口が歌詞を書き下ろし、それに素晴らしいメロディが付けられて収録されている。またCD同梱の豪華なブックレットには曲ごとに対応する小説本文の抜粋が記載されている他、デザイナー奥井弘が制作した10枚のイラストが彩りを添える。文章、イラスト、音楽を同時体験して動くイメージを思い描く...『オリジナル・サウンド・トラック - 私淑の人』はそんな贅沢な楽しみを与えてくれる素晴らしい作品集である。


シングル『意志あるところ道あり』 ※ジャケットデザイン:奥井弘
そうは言いながらも映画音楽を強く意識した作品集である。冒頭と最後を飾るインストゥルメンタルはまさに映画のオープニング・テーマ、エンディング・テーマと言っても差し支えない楽曲であるし、随所に挿入される効果音も雰囲気を盛り上げる。後藤自身が30年ぶりにクラリネットを演奏したり、久々に奥井自身がボーカル?で参加したり、お馴染みのベーシスト上南雅博が今回は4曲で客演するなど、洛東UNDERGROUNDとそのファミリーが総力を上げて作り上げた充実の作品集『オリジナル・サウンド・トラック - 私淑の人』、心ゆくまでお楽しみいただきたいと思う。




洛東UNDERGROUND Presents 空想映画 『私淑の人』 試写会




Contents Of "One Who's Adored" WHAT IS ? CONTENTS MAKING PROCESS NOTES FROM AUTHOR ILLUSTRATION FROM THE WORDS

まずは収録曲、パーソナル、簡単な曲目紹介を行う。

1.「私淑の人」メインタイトル Main Title - One Who's Adored (Music By A.Hashimoto)
A.Hashimoto .... Acoustic Guitar (Melody)
M.Morioka .... Acoustic Guitar
T.Yamaguti .... Piano / Harpsichord / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

橋本の手によるインストゥルメンタルのオープニングテーマ曲。誰かが“NHKの朝の連続ドラマの主題曲みたいや!”と言ったというが、まさに映画音楽らしい、しかも「私淑の人」という作品にふさわしいメロディに心打たれる。橋本の素晴らしいアコースティック・ギター・プレイも聞き物だが、ゲスト参加の上南雅博によるオーソドックスながらも当を得たベースの響きが特に印象的である。

2.ある新しい出会い・その1 - 知る人ぞ知る... One Of New Meetings Part 1 - Minor Author
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Acoustic Guitar / Electric Piano / Bass / Rhythm Programming

ここからの三曲は同じメロディの繰り返しを持った連作。繰り返し以外は各自が独自性を活かして作曲している。小説で描かれるみっつの出会いがそれぞれ曲になっており、主人公の生涯の研究テーマとなる作家・木山捷平との出会いを描くその1は橋本が担当、非常に手堅くメロディをまとめている。曲の方は渋いボサノバのバッキングに乗って肩の力を抜いた森岡のボーカルが重なる。流れるようなギター・ソロもまた印象深い。

3.ある新しい出会い・その2 - 二人の友達 One Of New Meetings Part 2 - Two Friends
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By T.Yamaguti)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Organ / Bass / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar

駅の雑踏の効果音から一転してアップテンポなR&B的な演奏へ。他の二人がスローな作品を書くと予見した山口はこの曲を用意したが、当初の割り当ては主人公が私淑することになる先生との出会いを描いたその3だった。最終的にスロー→アップテンポ→スローと構成した方が収まりがいいし、その2は若い二人の友達との出会いが描かれているから、ということで現在の割り当てに落ち着いた。

4.ある新しい出会い・その3 - いい先生 One Of New Meetings Part 3 - Good Master
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar / Harp
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Piano / Bass / Rhythm Programming

賑やかなその2とクロスフェイドするように登場するその3は森岡が担当。再びボサノバのリズムに導かれて心に染みいるハープの音色が流れる。その3は主人公が私淑することになる先生との出会いを概念的に描いた影のテーマトラックとも言える作品だが、さすが森岡、堅田サウンドとボサノバの融合を果たし感動を呼んでくれる。何とも言えない味のあるボーカルワークも素晴らしい。

5.安心できる優しい目 Gentle Eyes Ease Our Mind (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Piano / Synthsizer / Bass / Rhythm Programming

作曲を担当した橋本は最初に発表を行った際、“クイーンの「キラー・クイーン」みたいな感じのピアノを!”とリクエストしたらしい。結果として“ギターソロはブライアン・メイの雰囲気で!”とお返しされ今回の演奏となった。ここでは主人公が初めて先生に出会った時の印象がテーマとなっているが、歌詞には先生の略歴が織り込まれていておもしろい。また曲の後に入る蝉の声は物語の舞台となったB大学近くの寺院を後藤や奥井と共に訪ねた際に生録されたとのこと。

6.夏のキャンパス Summer Schoolyard (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By T.Yamaguti)
T.Yamaguti .... Vocal / Organ / Harpsichord / Flute Section / Bass / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar

キャンパスの風景をポップなメロディで綴った作品。主人公は通信生であるため通学生が休んでいる夏のさなかに大学を闊歩する。だが曲調といい、コーラスのアレンジといい、どう考えてもこれはビーチ・ボーイズである。だが盗作臭い点を除けば雰囲気は出ていると言ってよいだろう。

7.はじめての言葉 The First Word (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Violin Section / Bsas / Percussion
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar

主人公が憧れの先生と初めて言葉を交わしたシーンを描いたアコースティックギターの響きに心洗われる佳作。短い演奏時間の中で橋本と森岡が演奏するギターに乗って山口のボーカル、さらに終盤にはバイオリンの音色が絡んでくる。尚、この曲は森岡がコーラスのアレンジを担当、数カ所で三重唱を挿入している。

8.踊ろよベイビー Dance Dance Dance With Baby (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Piano / Rhythm Programming
M.Johnan .... Bass

“来いよ! 奴らの石頭を宇宙の彼方に蹴っとばせ。これは特別な銘柄、さあ踊り回ろうぜ”というかなりぶっ飛んだ歌詞が用意されているが、実際には“通信生賛歌”のロカビリー・ナンバー。珍しく森岡がボーカルを担当しているがこれが意外とマッチしている。この手の曲には必ず駆り出される上南雅博のベースもワイルドで気持ち良い。そして何と言っても聞き所は橋本のスライド・ギターであろう。尚、この曲はディスコ大会のMCと賑やかな拍手から始まるが、この効果音は完全に三人の手作りとのこと。

9.二枚の色紙 Two Square Pieces (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Organ / Synthsizer / Strings / Bass / Rhythm Programming

主人公が意を決して先生の元に出向き色紙を書いて貰う、という前半のハイライトとも言うべき重要な場面を描いた作品だが演奏の方はRUG得意のハード・ポップで始まる。橋本がギター・ソロの一人ハモリを聴かせれば、森岡も終盤でボーカルの一人ハモリを聴かせる。また曲はハードなギター・ソロからスローに転じ、さらにオーケストラのインストへと流れていく。前半を締めくくるにふさわしい非常に仕上がりの良い作品である。

10.あぶりもち Rice Cake Toasted (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By T.Yamaguti)
A.Hashimoto .... Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Acoustic Guitar
T.Yamaguti .... Sax / Electric Guitar / Harpsichord / Bass / Rhythm Programming
Y.Goto .... Diary Reading

ボーカルと言うよりも日記の朗読が行われる作品でどちらかというとインストゥルメンタル作品。小説のトーンを全く無視したレゲエのリズムに乗ってサックスがメロディを奏でる。ただし重要なポイントとして、小説を書いた作者の後藤雄二自身が日記の朗読を担当している。キャンパス・ライフにおける雑多な出来事を描く幕間的作品である。

11.さざなみ Wavelet (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By M.Morioka)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Harpsichord / Strings / Cello Section / Rhythm Programming
Y.Goto .... Clarinet

まるで中世絵巻を見ているような不思議な感覚がある。ワルツのリズムに乗ってクラシカルなメロディが流れていく、またしても堅田サウンドの新境地を開拓した森岡の作品。またここでは30年ぶりに後藤雄二がクラリネット・プレイヤーとして復帰、素晴らしいソロを聴かせてくれる。尚、この曲自体は主人公の生活に新たな女の子が現れ波紋を生む場面を描いていて、波や鳥の声の効果音は本当は余計である。

12.夜空の天井の下で涼む Cool Off Under Ceiling Of The Night (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By T.Yamaguti)
T.Yamaguti .... Vocal / Acoustic Guitar / Sax / Synthsizer / Bass / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar

いかにも80年代のAOR的なポップ・ナンバー。独特のメロディを持つが何となく冗長な印象が残り、山口自身も“こねて、こねて、こね回して出来た作品”と言い仕上がりに不満げである。ただしコーラスの部分については森岡がアレンジを担当、印象深いハモリを中心にうまくまとめている。尚、この曲は主人公をはじめとした主要登場人物が一同に会し京都・鴨川の夏の風物詩、床に繰り出した場面を描いたもの。

13.星に想う(先生の家) Wish To The Stars (Master's House) (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar / Kazoo
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Banjo and Bagpipe Section / Bass / Rhythm Programming

主人公が先生の家を探しに行くエピソードを描いた歌詞に対し、作曲を担当した橋本はなんとも渋いメロディを用意した。最初に発表した時しきりに“バグパイプをいれたい”と言っていたためそういう音が挿入されている上に、そのイメージからカズーのワンポイントのソロが採用された。尚、一時期山口はこの曲を今作中のベストソングと言っていたが、歌詞の面でもかなり良い仕上がりであると自画自賛している。

14.手紙 Letters (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Electric Guitar / Piano / Strings / Bass / Rhythm Programming

「さざなみ」で現れた女の子と文通を始めた主人公は... というテーマで書かれたこの歌詞は「私淑の人」プロジェクトにおいて最初に書かれたものである。橋本の手による曲の方もフォークソングの雰囲気が感じられるオーソドックスなものとなっている。尚、ここでは高度な森岡のボーカルワークに注目したいものである。

15.友を想う Love And Respect To Friends (Words By Y.Goto, T.Yamaguti and H.Okui / Music By H.Okui)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
T.Yamaguti .... Vocal / Piano / Organ / Bass / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar (Solo)
H.Okui .... Backing Vocal

今回のプロジェクトでは10枚の素晴らしいイラストを描いた奥井弘だが、この曲では作曲および存在感のあるバックコーラスで協力している。ボーカルは森岡、山口のダブルボーカルで、それに奥井と橋本がからむ。曲自体はポップでまとまっており、ギター・ソロもしっかり入るなど、シングル発売しても売れる要素を備えている。尚、この曲では主人公がそれぞれの旅立ちが近いことを意識しつつ友人たちに想いを馳せる場面を描いている。

16.別れの予感 Feel The Goodbye (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By M.Johnan)
T.Yamaguti .... Vocal / Synthsizer / Strings / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar (Solo)
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
M.Johnan .... Bass

ベースの上南雅博と言えばRUGの古参サポーターであるが、今回のプロジェクトでは過去最多の4曲で客演しているだけでなく、新曲も1曲提供している。この「別れの予感」は上南の手になるもので、プログレッシブ・ロックの雰囲気も漂う素晴らしい作品である。ベテラン・ベーシストならではの上南のベースプレイはもちろん、森岡が考案した重厚なコーラス、橋本の美しいアコースティック・ギターのソロなど聞き所も多い一曲。

17.ネイビーブルーのオーバーコート She's Crying In Overcoat Navy Blue
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
T.Yamaguti .... Vocal / Electric Guitar / Piano / Brass Section / Bass / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
M.Morioka .... Backing Vocal / Acoustic Guitar
H.Okui .... Backing Vocal
Y.Goto .... Backing Vocal

本作のハイライトとなるナンバー。主人公と彼に想いを寄せている女性との別れの場面が描かれるが、RUGは「私淑の人」という小説自体を“一人の少年の成長と旅立ちの物語”と定義しており、力強い演奏がきかれる。まるでポール・マッカートニーが書いたかのような作曲を担当したのは橋本で、アレンジもそれに呼応してビートルズの雰囲気を漂わせるものとなっている。また森岡考案のユニークなコーラスワークも聴き物。さらにフィナーレに向かうところでの大合唱は奥井、後藤を加えた5名の多重録音である。

18.「私淑の人」愛のテーマ Love Theme - One Who's Adored (Music By M.Morioka)
M.Morioka .... Mouth Whistle / Acoustic Guitar (Solo)
A.Hashimoto .... Electric Guitar
T.Yamaguti .... Strings / Percussion
M.Johnan .... Bass

森岡の手によるインストゥルメンタルのエンディングテーマ曲。自転車で疾走している最中に突如浮かんだメロディが出発点だと言う。メロディを奏でるのは美しい口笛。アコースティック・ギターのソロも森岡自身が担当している。かくしてこの美しい曲をもって「私淑の人」はフィナーレを迎える。尚、この曲は上南雅博がベースを担当しているが、森岡のたっての希望で通常のベースラインとは別に6箇所に渡るスライド音を別途録音している。

 Let's Play Tracks Of Album ...




作品集「私淑の人」リリースと同時に、シングル「意志あるところ道あり」もリリースされた。以降にそちらの簡単な紹介も。

S-1.意志あるところ道あり Where There Is A Will, There Is A Way (Words By T.Yamaguti / Music By M.Morioka)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Electric Guitar
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Piano / Strings / Percussion
M.Johnan .... Bass

インストゥルメンタル・ナンバー「愛のテーマ」の基本トラックにボーカルを重ねたものである。しかし口笛の時はうまく合っていたキーが歌うとなると低すぎる!という事態に陥り、仕方なく森岡自身のダブルトラックのボーカルでカバーする羽目になった。尚、この曲の登場は突発的なものではなくプロジェクト当初からRUGメンバーの間では決定事項であった。またこの曲はRUGから小説の原作者・後藤雄二に捧げるものである。

S-2.ある新しい出会い・その1 - アコ・バー One Of New Meetings Part 1 - Acoustic Version
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Acoustic Guitar / Bass / Rhythm Programming

RUG恒例の“アコ・バー”登場。原曲では橋本が流れるようなエレキ・ギターのソロを弾いているが、それをここではアコースティック・ギターに置き換えて再録音。その結果、アコースティックならではの渋い演奏をきくことができる。

S-3.二枚の色紙 - アコ・バー Two Square Pieces - Acoustic Version
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By A.Hashimoto)
M.Morioka .... Vocal / Acoustic Guitar
A.Hashimoto .... Backing Vocal / Acoustic Guitar (Solo)
T.Yamaguti .... Backing Vocal / Acoustic Guitar / Bass / Rhythm Programming

この曲も“アコ・バー”として追加録音。橋本、山口がそれぞれエレキをアコースティックに持ち替えて再録音を行っている。原曲ではエレキで素晴らしい一人ハモリを披露した橋本は、ここでは新たにアコースティック・ギター用に一人ハモリを準備、披露している。

S-4.あぶりもち - ダンスホール・バージョン Rice Cake Toasted - Dance Hall Version
  (Words By Y.Goto and T.Yamaguti / Music By T.Yamaguti)
T.Yamaguti .... DJ Toast / Sax / Electric Guitar / Harpsichord / Bass / Rhythm Programming
A.Hashimoto .... Electric Guitar (Solo)
M.Morioka .... Acoustic Guitar

オリジナルは後藤雄二が日記の朗読を行っている作品だが、ここではその代わりに山口がDJトーストを行っている。曲名の原題に引っかけたのかどうか定かではないが、全くもって蛇足的なバージョンと言わざるを得ない...。

Making Process Of "One Who's Adored" WHAT IS ? CONTENTS MAKING PROCESS NOTES FROM AUTHOR ILLUSTRATION FROM THE WORDS

このユニークな新作『オリジナル・サウンド・トラック - 私淑の人』はどういう経緯で誕生したのか? そのあたりをドキュメントしてみる。

2007/7/15
この日RUGの正規メンバーだけで開催された“ビアホールの会”にて橋本がサントラ盤の制作について口走る。それはひとつの映画を思い浮かべその映画に合った曲を新たに書き上げる、というものだった。その場では“そりゃおもろい!”と盛り上がったが、話としてはそれきりとなる。

2007/8/13
この日恒例となった“お盆の会”に森岡が特別ゲストを連れてきた。それは30年前、洛東UNDERGROUNDがステージに立った時「もうとり戻せない」でクラリネット・ソロを吹いた後藤雄二であった。現在はライターとして活躍している彼は、後にこの当時制作中だった「30周年記念編集盤」のライナーノーツ執筆を快諾する。

2007/9/22
別にライナーノーツ執筆の交換条件ということではなかったと思うが、後藤から送られてきた小説が関係者に配布される。それが「私淑の人」だった。後藤が初期に書いたこの小説はメンバー達から絶賛される。

2007/10/6
この日次のようなコメントが公式サイトのメンバー用ページにアップされた。

今後の活動の目玉企画である“「私淑の人」サントラ計画”ですが、どうやら作者・後藤雄二氏の許可が下りた模様です。山口は早くも英語タイトルに“One Who's Adored”を設定しており、この作品を12場面に分けてそれぞれがひとつの曲になるという壮大な計画に発展しそうな勢いです。また当然インストのメインテーマとエンディングテーマは必要だということで、特にエンディングは森岡が「哀愁のメロディ」ばりの素晴らしい曲を用意してくれることになりました。いずれにしても大いに頑張りたいものです。

どうやら以前橋本が口走ったサントラ盤計画が「私淑の人」という素晴らしい素材を与えられて息を吹き返したようである。

2007/11/4
この日公式サイトのメンバー用ページにデザイナー奥井弘のコメントがアップされた。

小説読んだ。学生時代に誰もが思う自分探しを中心に、淡い恋愛と深い友情を軽いタッチで書かれた小説やね。アメリカングラフィティを見ているような感じでした。絵の方はゆっくり考えたいと思うので気長に待ってください

やはりサントラ盤である以上動かなくてもいいので絵がほしい、ということなのであろう。巻き込まれた奥井はイラストの制作を約束した模様である。

2007/12/29
恒例の“忘年会”の前に駅前スタバで制作委員会の初会合が開催された。参加したのは後藤、奥井、橋本、森岡、山口。以下の重大発表が行われる。

(1) 山口より物語を16の場面に分けたシナリオが提示される。これにオープニングの「メインタイトル」とエンディングの「愛のテーマ」を加えた18曲が収録曲になると言う。また彼は正月明けからボチボチ歌詞を書き始めると宣言。橋本には「メインタイトル」、森岡には「愛のテーマ」の完成が重要ミッションとして与えられた

(2) 奥井より物語に基づいて10枚のイラストを作成することが発表される。場面のイメージにあった写真をベースにイラストを加える構成で制作していくとのこと。後藤から吉沢先生の写真を入手するなど早くも準備に余念がない


また“忘年会”に現れたベーシスト上南雅博も協力を約束、ファミリー総出のプロジェクトに発展した。

2008/1/20
以前より噂になっていた上南の新曲が発表された。プログレッシブ・ロックあたりに共通する哀愁が漂う素晴らしい作品だが、この時点ではまだ歌詞がなかった。山口はこの曲を「私淑の人」に取り入れるよう強く進言、最終的に関係者で協議の結果別れの予感として完成させることが決定。

2008/1/26
山口が別れの予感の歌詞を書き上げデモを作成、配信。かくしてこの曲が『オリジナル・サウンド・トラック - 私淑の人』収録予定曲で最初に出来上がった曲となる。尚、他の歌詞も順次書き進んでいるようだが、作曲者の段取りを配慮してある程度たまったら一気に発表するつもりらしい。

2008/2/3
奥井、イラストメインタイトルをリリースする。全員共通の母校の高校の航空写真をベースに突き進む新幹線のイラストを配置した構図。A〜Eの5つのパターンが提示されメンバー間でどれがいいと話題になる。

2008/2/9
奥井、イラスト教えをリリースする。正月にわざわざ舞台となった洛北大学のモデルB大学に行き撮影した教室の写真をベースに、物語の主人公が先生に頼んで色紙に書いてもらう言葉を配した構図。A〜Gの8パターンが提示された。

2008/2/21
奥井、立て続けのイラスト第三弾師との出会いをリリースする。やはり正月にB大学で撮影した校舎の写真に3体の地蔵を配した非常にユニークな内容。また蓮の花があるA〜D、大仏がいるE〜Gの8パターンが提示された。

2008/2/23
山口が歌詞第一弾をリリース。実際には週に一曲ペースで書き進めていたようだが発表はまとめてとなった。(1) ある新しい出会い1〜3 (2) はじめての言葉 (3) 二枚の色紙 (4) あぶりもち (5) 手紙 (6) ネイビーブルーのオーバーコート の8曲分。尚、同時にメンバーには「ある新しい出会い」の共通メロディ部分の音源も配信され、その1が橋本、その2森岡、その3山口という割り振り予定。また「あぶりもち」は歌詞を書く都合上山口自身がすでに曲をつけてしまっているらしい。

2008/3/8
怒濤のごとく橋本が作曲にとりかかりこの日全員集合で新曲発表が行われた。この日発表されたのは橋本からメインタイトル」「はじめての言葉」「二枚の色紙」「手紙、森岡から愛のテーマ、山口からあぶりもちの6曲。

またこの日、奥井がイラストの第四弾として友との出会いをリリース。風呂屋の写真をベースに三本の缶ビールが並ぶ構図でA〜Gの8パターンが提示された。缶ビールのデザインが秀逸で絶賛を呼ぶ。

2008/3/19
山口が歌詞第二弾をリリース。(1) 星に想う(先生の家) (2) 友を想う (3) 夏のキャンパス (4) 踊ろよベイビー の4曲分。尚、友を想うは“忘年会”での会話がきっかけで奥井が作曲を担当することになった。また夏のキャンパスは山口自身が曲を付ける予定。

2008/3/22
橋本の作曲がさらに勢いを増してきた。この日ある新しい出会い・その1ネイビーブルーのオーバーコートが発表される。

また奇しくもこの日、奥井もイラストそれぞれの道をリリース。B大学付近の大徳寺参道の写真をベースに三羽のゆりかもめが舞う構図でA〜Gの7パターンを提示。ゆりかもめの飛び方には二種類ありまたまた関係者間で議論を呼んだ。

2008/4/5
橋本が星に想う」「踊ろよベイビーの二曲を発表。これで自分に割り当てられた歌詞はすべてクリアした、と豪語する橋本。異常なペースである。

2008/4/8
負けじと山口が歌詞第三弾リリース。(1) 夜空の天井の下で涼む (2) さざなみ (3) 安心できる優しい目 の3曲。これでインスト曲を除く16曲分の歌詞は全て完成した。またこの3曲については誰が作曲すべきか後藤に決めてもらおう、ということになった。

2008/4/12
奥井、イラスト手紙をリリースする。皇居で撮影した桜の写真をベースに手紙をあしらった構図。A〜Dの4パターンが提示された。

2008/4/15
森岡がスローで味わい深いある新しい出会い・その3のデモをメールにて配信。尚、この時点では「その2」としての配信だったが、アップテンポな曲をすでに書いていた山口がスロー→スローと続くよりスロー→アップテンポ→スローと進んだ方が収まりが良いとして森岡作品が「その3」、山口作品が「その2」となる。

2008/4/25
奥井、イラスト友への思いをリリースする。あぶりもちで有名な店かざりやの写真をベースに、3つの楽器のイラストを配した構図。ピアノの骨組みが紫野・衣笠エリアの地図になっているなど非常に凝っており、またまた絶賛を呼ぶ。A〜Cの3パターンの配信。

2008/4/27
後藤の作曲者指示を受けて橋本が安心できる優しい目、山口が夜空の天井の下で涼むを担当。この日この2曲が発表される。おそらく奥井の新曲はまだしばらく発表されないので、森岡が「さざなみ」を発表したら録音開始だ!という話になる。

2008/5/9
満を持して森岡さざなみをデモ配信する(あまりの素晴らしさに早くも作品中のベストソング、という声があがる)。いずれにしても基本となる課題曲が出揃ったのでボーカル割に突入。

2008/5/24
最終的に後藤の希望を受けてボーカル割が決定! またこの日第一回録音の詳細が決定する。

2008/6/14
第一回録音実施。メインタイトル」「はじめての言葉」「あぶりもち」「さざなみ」「ネイビーブルーのオーバーコートの5曲にとりかかる。今回コーラスは後でまとめて録音する方向のため完成曲は出ていない。

2008/6/28
山口の陰謀により、奥井から送られてきた奥井自身が出演している友を想うの動画デモが公開された。これまたパワーを感じる素晴らしい曲で、これでついに全曲が出揃ったのである。

2008/7/26
第二回録音実施。ただしフェイント弾が炸裂! 森岡が不参加の中、橋本と山口の二人で録音が進められた。踊ろよベイビー」「友を想うの2曲を録音したが「別れの予感」は仕上がり不満足のため次回録り直し、「愛のテーマ」は何らかのアクシデントで録音されなかった。

2008/8/13
第三回録音実施。これは前回参加できなかった森岡の希望で行われたもので、残った二人もそれに便乗、踊ろよベイビー」「友を想う」「別れの予感」「愛のテーマが録音された。またこの日の録音は二部構成で前半が洛東UNDERGROUNDの部。後半はお盆で京都に帰っていた奥井と後藤も参加、後藤があぶりもちの日記の朗読とさざなみのクラリネット、奥井が友を想うのコーラス(バックボーカル?)を録音。さらに全員でネイビーブルーのオーバーコートのフィナーレのコーラスを録音するなど非常に充実した一日となる。

2008/8/15
この日は“お盆の会”が予定されていたが、それに先立って“「私淑の人」ツアー”が実施された。奥井が新しいイラストのネタとなる写真を撮影するのが主目的であったが、作品の空気を感じるべくB大学をはじめゆかりの場所を巡るツアーとなった。“かざりやのあぶりもちがおいしかった”と森岡は供述。

2008/9/7
奥井、しばらく休止していたイラストの配信を再開、師への思いをリリースする。つい先日の8月15日に撮影した吉沢先生宅の百日紅の写真をベースに、銀河のイラストを添えた構図。当初AとBの2パターン、最終的にはC、Dが追加された4パターンの提示となる。

2008/9/13
奥井、再び勢いを盛り返しイラストキャンパスライフをリリース。物語の登場人物が一同に会食した場所として描かれる京都四条の東華菜館の写真をベースに3つの花火のイラストを配した構図である。A〜Eの5パターンが提示された。

2008/9/15
第四回録音実施。ただしこれは森岡と山口だけが参加して行われた“第四回1/2”。全員のスケジュールが合わない中、年末完成のために苦渋の選択となったのが分散録音だった。この日はある新しい出会い」(その1〜その3)「安心できる優しい目」「夏のキャンパス」「夜空の天井の下で涼む」「星に想うの橋本のパート以外が録音された。

2008/9/21
奥井、ついに最終のイラスト大切なものをリリース。重要な別れのシーンの舞台となる京都駅の象徴、京都タワーの写真をベースに2種類のイラストが用意された。エスカレータを昇っていく節子の構図か? はたまた飛び跳ねる錦鯉(=主人公・新平)の構図か? 尚、奥井はメール本文に“まだジャケットデザインが残っているが”と前置きしつつ、今回の企画について早くも“良い2008年になったと思っている”と綴っている。

2008/9/27
奥井、ついに最後の大仕事、ジャケット・デザインを一気に公開。A〜Gの7パターンが提示された(後にHが追加され8パターンとなる)。これを見た山口は“どれも拡大して壁に貼っておきたい”と言ったらしい。

またこの日は第五回録音(正しくは第四回2/2、か?)が実施された。この日はまず橋本が現れある新しい出会い」(その1〜その3)「安心できる優しい目」「夏のキャンパス」「夜空の天井の下で涼む」「星に想う」「友を想うの録音を実施。これで友を想うが完成曲2号に。また途中から森岡もやって来て最終的にさざなみのコーラスを全員で録音。これが完成曲3号となる。

2008/10/12
第六回録音実施。表向き“分散録音”と言っていたが実際は全員揃った。しかし橋本は手ぶらで参加。この日はまず森岡主体で手紙」「二枚の色紙」「意志あるところ道ありのボーカルやバッキングが録音された。これでボーカルパートは完了、またRUGの楽器パートは次回橋本が2曲演奏して完了である(橋本によるとギターは次回、ビシッと決めるとのこと)。また三人でコーラスを録音し安心できる優しい目」「夏のキャンパスがさらに完成リストに加わった。

また第一弾シングルのジャケットが奥井に正式依頼されたのもこの頃である。

2008/10/18
第七回録音実施。今回はほぼ最初から全員集合でまず橋本がギターを演奏、これがRUGとしては最後の楽器のパートとなる。その後全員で怒濤のごとくコーラスをとりまくりある新しい出会い」(その1〜その3)「星に想う」「手紙」「二枚の色紙が完成、踊ろよベイビー」「別れの予感も上南のベース待ちの段階に昇格。尚、この日時間があったため「踊ろよベイビー」の冒頭にあるディスコ大会のシーンの録音も行われた。ちなみにこの録音は三人でマイクを囲み何回も拍手したりやーやー言ったりする、という異様なものであった...。

またこの日、アルバムおよびシングルのジャケットについて協議されデザインが正式決定された。

2008/11/3
沈黙を守っていた上南から突然連絡があり課題曲4曲のうち2曲を録音するという。森岡は仕事の日だったため、橋本と山口が上南邸に出向きベースの録音が実施された。結果メインタイトル」「踊ろよベイビーの2曲が完成となる。尚、当初は録音完了後のつもりだったが、失敗が続いたため途中でちょっと泡だった燃料の補給を行い無事完了に漕ぎ着けた...。

2008/11/8
残ったコーラスをやっつける、ということで三人揃ってマイクを握る。指揮をとるのは“コーラス大臣”と呼ばれる森岡。かなり高度な要求が行われるが事前に周到な準備をしていたお陰でなんとか無事終了、はじめての言葉」「夜空の天井の下で涼む」「ネイビーブルーのオーバーコートの3曲が完成、「愛のテーマ」のボーカルバージョンである意志あるところ道ありが上南によるベース録音待ちとなった。尚、これでRUGのボーカル/コーラス・パートは全て完成、いよいよ完成が目前に迫ってきた...。

2008/11/15
この日橋本がアコースティック・ギターを抱えて山科スタジオに現れた。シングル「意志あるところ道あり」にカップリングされるアコ・バー2曲の録音である。ある新しい出会い」(その1)「二枚の色紙を片付ける。かくしていよいよ残るは上南がベースを弾く2曲が残るのみ!

2008/11/23
上南邸に橋本、森岡、山口が集合、最後の録音が実施される。まずはビールで喉を潤した上南は別れの予感」「愛のテーマを録音。森岡がしきりに訴える“ぶぅーん”(「愛のテーマ」6箇所に挿入されるスライド音)も完璧にクリアしこれで音の方は完成となる。4人はそのまま打ち上げに突入、山科の夜は更けていったのであった...。

Notes From Author Of "One Who's Adored" WHAT IS ? CONTENTS MAKING PROCESS NOTES FROM AUTHOR ILLUSTRATION FROM THE WORDS

ここでは作品集の制作過程において原作「私淑の人」の作者・後藤雄二が折りに触れて発信してきたコメントを抜粋して掲載する。

■「私淑の人」の英訳“One Who's Adored”を見て...
「私淑の人」の英訳も冴えた訳だと思います。僕はこのタイトルについてよく人に訊かれました。「私淑の人」の「人」とは「私淑する人」なのか「私淑される人」なのか、という質問です。好きに判断してください、という結果になるのですが、本当のところは、先日も話しましたが、「吉沢先生」のことなのです。ですから、One Who's Adored 、「敬愛される人」、という英訳は「私淑の人」という日本語表記の曖昧さを払拭する的確な表記だと思いました。僕は門外漢ですが、One を用いるセンスの良さは何となく分かります。それよりも何よりも、僕の作品に目を向けてくださり、大切に思ってくださることが稀有なことですし、有り難きことと身に沁み入る日々です。

■ジャケット・デザインの試作を見て...
奥井君、ジャケットデザインをたくさんお送りくださり、ありがとうございました。僕など至らぬことばかりですのに、こんなに大事にしていただいて、感謝を通り越して、感動しています。Aのデザインを見ましたとき、涙がこぼれました。こんなふうに出来上がるとは、予想もしていませんでした。吉沢先生のイラストも目許など先生の人柄がうまく出ていて、また、それ以上に、先生にそっくりですし、奥井君の才能の素晴らしさとともに、「イラスト」の持つ、無限の可能性を感じました。先生の写真を奥井君にお見せしたとき、コピーをしてくださいましたね。しかし、それだけの材料で、先生を描く、ということは、大変だったと思います。奥井君のお仕事には、「愛」がありますね。ですから、見る者に感動を与えるのだと思います。これだけ、吉沢先生の雰囲気を的確に出せるのは、技術のみならず、「心」で描かれているからに違いありません。僕はAが気に入りましたが、皆さんは、いかがですか。「RUGのCDジャケット」ですのに、B大と吉沢先生と僕が露出し過ぎで、RUGの皆さんには申し訳ない感じがいたしますが、奥井君が、このようなデザインをお考えくださったことに、我が意を得たのも、正直なところです。

■「メインタイトル」の発表デモを聴いて...
「メインタイトル」、「愛のテーマ」の2曲、とてもいいですね。「メインタイトル」は橋本君の曲ですか。演奏も橋本君ですか。感動しました。何度も聴きました。不思議と、B大の講義室や研究室、図書館、また中庭の光景などが思い浮かびました。まるで、当時、この「メインタイトル」を聴いて過ごしていたかのような感覚になりました。きれいないい曲ですね。「青春」ということばがぴったりです。僕は映画のサン・トラ盤では「フェーム」が好きですが、そのような趣もありますね。「フェーム」のバラードよりは、明るくてこの「メインタイトル」のほうが断然いい曲です。演奏もうまいですね。

■「ある新しい出会い」三部作の歌詞を受け取った時...
「それぞれの出会いが人生を通じて僕を育てた」という部分には、驚きました。小説にはフィクションもありますが、実体験が色濃く出ている作品ですので、自分の日記を読んでいる気持ちにもなりました。山口君としては、しきりに力不足を話されますし、推敲の余地があると思われるようですが、僕は十分行き届いた詩作をされていると思います。英訳は専門的なことは分かりませんが、自分の英語力の範囲で吟味しますと、口語的でよく工夫なさっていると思いました。親しみのある英文です。感想にもなりませんが、そんな印象を持ちました。

■「友との出会い」のイラストを見て...
(友との出会い)のイラスト、楽しみました。ビールの缶が、いいですね。このような缶ビールが本当にあったら、面白いですね。「洛」という字はなんと素敵な字なのでしょう。缶ビールの並び方のセンスにも惚れ惚れしました。奥井君の文章にも感銘を受けました。奥井君の人を分け隔てしない、また、どんな人をも尊重する姿勢には学ぶことが多いです。

■「師との出会い」イラストの素材集めのため奥井弘が母校を訪ねたことを受けて...
奥井君がB大を歩かれて、図書館まで行かれたなんて、お話を聞いているだけで、楽しくなります。学校というものは、何ともいえない嬉しい雰囲気がありますね。

■「安心できる優しい目」の歌詞を受け取った時...
「安心できる優しい目」の詩をありがとうございました。「厳しそうに見えるがその目は僕らの心に優しい」、この言葉で始まる連の繰り返しは印象に残ります。吉沢先生はどちらかというと、僕たちが在学中は、気難しい感じの先生でした。ですから、女子学生には敬遠されていました。みんな「怒られそうでこわい」などと言っていました。僕も初めはそんな印象もありましたが、親しくなると、心底優しい先生であることが僕には分かりました。先生を慕う多くの学生は先生の本当の姿を知っていました。厳しい感じだが、目が優しい、というのは僕の初めの頃の先生の印象でしたが、先生の穏やかさを感じ取るその感覚はいまも変わりません。

■「夏のキャンパス」の歌詞を受け取った時...
「夏のキャンパス」の詩をありがとうございました。大事なことがしっかりと綴ってあり、完成度の高い詩ですね。「それは誰かに恋をするような感覚」とはうまい表現ですね。「詩」らしい言葉です。僕は、思うのですよ。もしも好きになった先生が、吉沢先生でなくて、女性の先生だったとしたら、僕の学生時代は生々しくなり、かえって無味乾燥だったということを。異性が相手では下心がありますので、純粋に尊敬できません。相手の本当のよさをさがす度合いも種類も違ってきます。吉沢先生とは男同士ですから、目標になるわけです。「あこがれ」は共通のこととしても、女性に対する「あこがれ」とは異なるわけです。先生のような男になりたいな、先生のような感覚がほしいな、という「あこがれ」です。女性に対しては「自分だけの人になって。僕を受け止めて」という気分が前面に出て、それこそ、「盲目」になるわけです。そんな女性の先生をあこがれの対象にしたら、恋愛小説にはなりますが、「私淑の人」は出来なかったことと思います。やはり、相手は「吉沢先生」でなければならなかったのだと思います。その気持ちを詩にした時、「恋」という言葉が何かを語ってくれて、雰囲気作りに接近していることが、嬉しいな、と思いました。僕の側からは「恋」という発想はそう簡単には出ません。でも恋心のようなよい気分が常にありましたので、山口君の詩を読んでいて、うまい詩だなあ、と思いました。吉沢先生にこの詩を読んでいただいたとしたら、「君は僕に恋をしていたの?」とからかわれそうです。 

■「キャンパスライフ」のイラストを見て...
奥井君、いつもきれいなイラストをありがとうございます。奥井君のなさる仕事は丁寧ですね。イラストに少しずつ違いを出され、僕たちに選択の醍醐味をお与えくださいます。いろいろと見比べていますと、本当に、目移りします。今回もずいぶん迷いました。僕は結果的に E がよいと思いました。イラストには何らかの統一性や必然的な流れがおありだと思いますが、僕は、いいな、と思った感覚だけで、選ばせていただきました。Eの右下のビルのきらめきが鮮やかに感じました。人が行き交い車が走る、町の息吹のようなものが感じられて、その思いのまま、東華菜館に目を映しますと、花火に驚き、建物の存在感が増しました。建物の呼吸さえ感じられました。また、繰り返し、イラストを見ましたが、構図が素晴らしいです。僕はカメラぐらいは少しやりますが、気に入ったバランスで仕上がることがほとんどありません。ですから、奥井君のなさる芸術には本当にあこがれます。東華菜館の存在感は、どのイラストも見事だと思いました。簡単なようで難しいことだと思います。

■「はじめての言葉」の歌詞を受け取った時...
「はじめての言葉」では、吉沢先生と一緒にはじめてビールを飲んだ日のことを懐かしく思い出しました。70歳くらいのおばあさん、そのような同級生もおられました。コンパでも教室でも楽しそうにしておられました。「靴を脱いだ靴下の足」のシーンも懐かしかったです。どの詩も、僕の小説を読むのが前提なって仕上がっているので、サン・トラ盤の雰囲気がよく出ていると思いました。いつも素敵な詩をありがとうございます。

■「踊ろよベイビー」の歌詞を受け取った時...
予想をはるかに超えた、ノリノリの詩に圧倒されました。外国映画の字幕を読んでいるようで、一つひとつの言葉がキラキラしています。「踊ろよベイビー」とは通信生みんなのことだったのですね。僕は女子学生が抱いている赤ちゃんのことだとずっと思っていました。「ここではみんな赤ん坊」。学生は、大学という優しい親に包み込まれ、安心して過ごしているわけですね。“俺たちはスクーリングの学生だ。夏のキャンパスは俺たちの天国。来いよ! 足下の地面を越えて翼を広げろ。これは約束の地さ、さあ踊り回ろうぜ” この部分は最高にいいですね。「通信生賛歌」になっています。「作家みたいに見える彼」は僕のことですか。大学でディスコを踊った日のことが思い出されました。「そして俺たちは食堂で踊る」は、びっくりしました。実際は大学の大講堂が会場でした。でも、食堂という設定は、映画「フェーム」で、学生たちが食堂で次々に音楽を演奏し始め、踊り出すシーンみたいで、とても面白いと思いました。“来いよ! 奴らの石頭を宇宙の彼方に蹴っとばせ” ここは、少し意味が分かりませんでした。過激なセリフで面白いものですので、貴重な部分ですが、「奴ら」は誰のことなのでしょうか。それが「特別な銘柄」という解釈に続くわけですね。ちょっと趣旨が分り辛いと思いました。言葉に魅力がありますので、是非意味を理解したいな、と思いました。

■複数パターンが送られてきた「教え」のイラストを比較して...
僕はイラストを並べて、AとCを候補にあげて、いろいろと見比べました。両者に共通するのは、先生の言葉の文字と教室の光景がうまく溶け合っているように感じた点です。どちらかが主張することなく、かばいあうように収まっているのがよいと思いました。結果はAに決まりました。全体的にAのほうが明るくて、一目見て、両者に目が行き易いと感じました。皆さんはどうでしょうか。

■「二枚の色紙」の歌詞を受け取った時...
「二枚の色紙」、よい詩を楽しみました。「ペンで書いたのと毛筆でかいたのと 先生がくれた二枚の色紙 今僕の手元には一枚しかないがそれはまた別の物語 これは時代が詰まったかけがえのないもの」... この部分は胸に迫りました。こんなふうに詩に残るなんて、嬉しいことです。ありがとうございます。

■「友への思い」のイラストを見て...
奥井君、(友への思い)のイラストを ありがとうございました。「かざりや」を背景に、3種類の楽器とは、すごい発想ですね。「かざりや」までお出かけになったことも驚きです。奥井君は行動派ですね。よいイラストです。僕はAがいいな、と思いました。「かざりや」の存在がはっきりしていると感じました。ピアノの地図は京都らしい通りが描かれています。いろいろと趣向が凝らしてあり、付加価値の楽しみがありますね。僕は大学の頃は、先輩たちとお向かいの「一和」へよく行きました。数年後、塾長先生と京都を歩いた時も、B大を見学したいと言われ、そのついでに「一和」へ行きました。もちろん、昔は「かざりや」へもよく行きました。「かざりや」は人気があるのか、行くと、お客さんでいっぱい、ということがありました。「一和」へ行くと、空いているということがありました。でも、どちらも同じようで、ともに美味しいあぶりもちでした。作家の池波正太郎さんは「かざりや」の大ファンで、あぶりもちをテイクアウトし、宿泊のホテルで食べたということです。僕の小説では「今宮神社」という説明がありませんが、初めは今宮神社のことも書いていました。編集者の方が、紫野界隈、として表現することを勧め、書き直しました。神社そのものの描写はストーリーにあまり沿っていなかったからだと思います。

■「友への思い」イラストに添えられた奥井弘のコメントに対して...
奥井君の言われるように、音楽は本当にいいものですね。僕は庶民的な歌謡曲やフォークなどが好きですが、素晴らしいメロディーはどのジャンルにもありますね。クラシックにも吹奏楽にも忘れられないメロディーがあります。この頃は、ポップロックにも気持ちを置くことが増えました。「人生の節目のなかで、いろいろな音楽がその人の記憶の中に刷り込まれていく」という奥井君のお話は本当によく分かります。人恋しくなり、その人や当時のことを思い出すために音楽を聴く、ということがあります。メロディーにふれて、忘れていたことがはっきり思い出されるということは、誰もが経験することですね。これは嬉しい魔法ですね。

■「あぶりもち」で読み上げた日記に関連したこと...
昨日、帰宅すると、押入れから日記帳の入っている埃だらけのダンボールを開けました。もう、何年も見なかった日記帳をなつかしく読みました。山口君からのご質問にお答えします。

1、祇園会館で3本立てをみる。→ 1982年8月14日(土)です。ちなみにこの日は、「ブッシュマン」、「レイダース」、「ザ・カンニング」でした。
2、先生からお礼のハガキがくる。→ 1982年8月21日(土)です。
3、千本北大路のバス停でしゃべったあとあぶりもち → 1982年9月18日(土)です。
4、講座のあと、先生の研究室へ → 1982年10月16日(土)です。
5、初めて大学祭に行った。グラウンドでは女性シンガー。→ 1982年10月31日(日)です。この女性シンガーは、「泰葉」でした。

以上です。当時の日記は、若者特有の未来への希望に満ち溢れている記述があり、自分の日記ですのに、とても客観的に読めました。何も成り立っていない自分への苛立ちや、人に対するあこがれ、恋愛、時には何かを悟りきったような傲慢な心が吐露されていて、恥ずかしく感じながらも、書き残しておいて良かったと思いました。

■歌詞「さざなみ」を誰に作曲してもらいたいか聞かれて...
「さざなみ」は森岡君がいいですね。「発生した小さなさざなみ」に思いを寄せて、意外性のある曲を作ってもらえるような気がしたからです。哀愁がありながら。「さざなみ」にどきりとするようなメロディーができるのでしょうか。

■「さざなみ」でクラリネットを吹くよう依頼されたことについて...
僕がクラリネットで演奏させていただけるのですね。いま、僕のクラリネットはまともに音の出る状態ではありませんが、でも何とかいたします。兄に借りるのも手ですが、練習もしなければいけませんし、手頃なのを新調しようとも思っています。そんな方向で考えておりますので、しばし、お時間をください。森岡君、皆さん、ご指名をいただきましてありがとうございました。

■後日クラリネットを新調購入した時の模様...
今日、仕事の前に、時間があったものですから、町を歩きまして、いつもよく行く楽器屋さんで、クラリネットをいろいろ見ていました。楽器屋さんのお兄さんが、お手にとってはどうですか、と話しかけて来ましたので、久しぶりにクラリネットを吹くことになった等の話をしました。山口君たちの話もしましたら、高校時代の仲間でバンド活 動を続けていることを、「いいですね。羨ましいです」と感心していました。その人は、ベースギターを弾いてバンド活動していると言いました。見た感じ、30歳前後の店員さんでした。音楽の話が面白かったものですから、数日前から目をつけていましたフランス製のクランポンという会社のクラリネットを購入しました。とてもいい品物です。楽器の様子を確認するために吹いてもらえますか、と言われ、吹きました。20年ぶりくらいの久しぶりなことでしたので、吹けるかな?と思いましたが、指使いは覚えているものですね。低音が美しく、安定した音の出る楽器でした。調子に乗って吹いていますと、店員さんが、「いい音色で演奏されますね」とほめてくれました。僕はお客さんですので、お世辞だとは思いますが、面白いひとときでした。そんなことですので、クラリネットの練習を再開することができるようになりました。

■「師への思い」イラストに添えられた奥井弘のコメントに対して...
僕は俳句の会に所属していますが、最近、百日紅を題材にして、句を詠みました。百日紅は別名「紫薇(しび)」と呼ばれていることを「季寄せ」で知り、その名前を句に使いました。作った俳句そのものは、恥ずかしいので公表しませんが、その「紫薇」は、「薔薇」の間違いではありませんか、と指導の先生に指摘されました。40年間、俳句に親しんでこられた先生ですが、「紫薇」という季語があることをご存知ではありませんでした。「教えてくださって有難う」とえらく感謝されてしまいました。吉沢先生とのご縁で、日常的に百日紅に親しみを持つようになり、その話題をまわりの皆様と共有するようになり、場合によると、ご迷惑もかけていることもあるかと思いますが、ひとつの言葉、ひとつの感動が活動し始める、そういうことが、人生なんだな、と思ったりもします。僕たちは、ただ、いたずらに生きているわけではない、ということを感じます。

■「夜空の天井の下で涼む」の歌詞を受け取った時...
「夜空の天井の下で涼む」の詩をお届けくださり、ありがとうございます。今回の詩も、小説がコンパクト化されている感じで、サン・トラ盤らしい内容だと思いました。“多分将来この行き詰まりを思い出すのだろう” 山口君の詩で、卒論に苦しんでいた自分をそのままに思い出すことができました。“多分将来このテーブルゲームを思い出すのだろう” 学生はみんな、楽しもうという気持ちが十分にありますので、どんなゲームでも大受けしました。善意の人たちの集まりでした。“多分将来このエピソードを思い出すのだろう” 学生時代には、先生から、西鶴の逸話をたくさん聞きました。その思い出は僕にとっての「B大通信」の象徴にもなっています。西鶴のエピソードを思い出すことは、通信生の頃の自分を思い出すことです。とても心地よい思い出です。“多分将来この涼しさを思い出すのだろう” YUKA floor は良い英語ですね。怪しくないです。むしろとても気分が出ています。また、あの夏の日にもどりたいです。

■「星に想う(先生の家)」の下音デモを聴いて...
「星に想う」の下音デモをありがとうございました。ゆったりした曲で、それでも気持ちに響くテンポがあり、華やかさ、というものはないかもしれませんが、山口君がおっしゃるほど暗いとは感じませんでした。今までにたくさんのデモを聴かせていただきましたが、このようなタイプの曲も18曲中にはあってほしいと感じました。橋本君の曲には幅がありますね。一つの曲にもメリハリがありますが、数曲聴きますと、実にバラエティーに富んでいますね。橋本君自身が心から音楽作りを楽しんでおられるからだと思います。「星に想う」のデモを続けて聴いていますと、星空を見上げ、眺めている自分がいました。橋本君のメロディーの心地よさがひしひしと伝わりました。

■「手紙」イラストに添えられた奥井弘のコメントに対して...
いまはメールが便利ですが、当時は文通というものがありましたね。僕は携帯が普及する以前は、間をおくことなく、数名の友人と文通していました。長く続いた人からしばらく返事が来なくなったなあ、と思うと他の人との文通が続くようになり、しばらく来なかった人との文通が復活すると、一週間に3通も4通も手紙を書いていた時期があったように思います。メールも嬉しいですが、手紙はポストに届いているのを感じただけで、心が躍ります。

■「手紙」の歌詞を受け取った時... ※この歌詞が一番最初に書かれた
早速、「手紙」の和訳、英訳をお届けくださり、感激でした。「西鶴を選んだんでしょう?」の部分は面映ゆくなりました。これは付加疑問文となるわけですね。吉沢先生が完成したCDを聴かれたら、どんな顔をされるだろう、と想像していましたら、楽しくなりました。日本語の詩もそれだけで高級な作品だと思いました。僕の小説の一部がこのような詩の世界になるなんて、驚き喜んでいます。詩を読み、「手紙 -Letters-」というタイトルが、ぴったりきていることを感じました。訂正された箇所も、tender が slender に、years が letters になり、韻を踏んでいるようで、よく工夫なさっていると思いました。僕は原作を書いただけで、何もできませんが、これから次々と歌詞や曲を発表してくださることに、わくわくしています。今後ともよろしく、楽しませてください。

■奥井自身が登場し「友を想う」を歌う動画デモを見て...
奥井君の動画をありがとうございました。久しぶりに奥井君に会えました。嬉しかったです。ギターのコードを活かして、よいメロディーが出来ましたね。旋律が耳に残りました。それをまた山口君がコンピュータで演奏され、歌が加わり、作品が完成するのですね。

■「それぞれの道」イラストに添えられた奥井弘のコメントに対して...
東山魁夷さんの「道」を意識したということですが、果てしない道に思いを馳せることが出来るという点で、絵に通じるよいお写真ですね。まだ見ぬ先というものには、本当に「希望」がありますね。僕はこの年齢になっても、どこかで、「希望」を感じている自分に気づくことがあります。「明日」に思いを託しているようなところがあります。

■「別れの予感」の下音デモを聴いて...
「別れの予感」では山口君のボーカルも聴かせていただき、楽しみました。ラストの「アー、アー」で終わるのが何ともいいですね。「翼を持っている人」と言ってくれた女友達は実際にいます。励みになる言葉でした。

■「ネイビーブルーのオーバーコート」の歌詞を受け取った時...
早々と歌詞をお届けくださり、楽しく拝見しました。RUGの皆さんが読み取られているように、新平にも節子に対する恋のような友愛のような気持ちがありました。でも、節子は京都で大学院に進むし、新平は東京で作家を目指すし、離れ離れになることはよく分かっていたのです。道がばらばらになることが青春ですし、それが永遠の別れになるとも思っていないわけです。「友情」が3人の「居場所」になって、帰るところを気持ちの中できちんと持っている心のゆとりがあるわけです。それでもそれぞれの進む道が目の前にあり、それを見つめて生きていくのです。僕は改めて、「私淑の人」を読み、そういうことを書きたかった、という自分を思い出しました。RUGの視点をお借りして、意外にそれが描けていることを知り、少し嬉しくなった次第です。書いていたときに、そのことをあからさまに説明するのは野暮だな、と思ったことも思い出しました。ですから、多くを語らず、表現しようと取り組んでいた面もあるかもしれません。京都駅で節子が見送りに来たシーンは、この小説を書き始めたときから、そんなラストにしよう、と考えていました。でも不思議なもので、節子が光村知子に嫉妬めいたことを言ったり、新平のそばにいたい、と言ったことは、必然性の為せる業で、書き上げた僕も、実は驚いているのです。ということは、僕には仲の良い女友達はいたとしても、節子に該当する人がいなかったことを白状することにもなりますが、読んでくださった皆さんがそのことで、やきもきしてくださることもあり、作品としてはひと味つけられて、よかったな、と思っています。

■「大切なもの」のイラストを見て...
奥井君、イラスト(大切なもの)をありがとうございました。僕は最高にAが気に入りました。すごいイマジネーションですね。女性が感じよく、CDのジャケットにも相応しいと直感しました。エスカレーターが進むにつれて、女性の姿は薄くなり、幻想的でもありました。じっと見ていますと、京都タワーが浮かび上がり、またじっと見ていますと、女性の姿が鮮明になり、「節子」の実体に気づかされますね。思いがけないものでありながら、好みのタイプのイラストを目の前に披露していただくと、本当に感動しますね。RUGの青い月もにくい演出です。ということで、僕の希望はAにさせてください。錦鯉のほうは、僕には少々グロテスクな印象が残りました。鯉の絵がリアルだからですね。ご説明を拝読しますと、なるほど、と納得いたしましたが、単純な好みだけで恐縮ですが、Aが気に入りました。

これまで奥井君のデザインのお仕事の一端を、イラストを通じてお見せいただきましたが、いつも、視覚に訴えかけてくださり、現実にその絵が目の前にあることに感動します。僕たちはふだん何気なく暮らしていても、さまざまに想像力を働かせて、自分なりの解釈、世界を感じ取ります。しかし、悲しいことに、頭の中や気持ちの中にその世界が厳然とあるのに、手にとるようにそれを眼前に置くことができません。それを果たし得るのは「芸術家」と呼ばれる人たちだけなのかもしれません。今回の(大切なもの)のAを拝見し、それを実感しました。僕はあのように節子がエスカレーターに向かうことを、潜在的に想像していたように思います。しかし、自分の力では、それを具象化することはできません。一見、無表情な感じの節子がとても魅力的です。可憐さも凛とした気分もあり、見事です。今日はよい時間をいただきました。奥井君は、子どもの頃から絵を描くこと、ものを作ることがお好きだとおっしゃり、そして、デザインする時は、「いつも何か人と違うものをどこかに取り入れたい。それが、自分が自分であることの証明である」とおっしゃっていましたね。個性的なイラストが次々と生まれていくことに納得している次第です。

奥井君の才能を育んだものは何だったのでしょうね。我らが母校という空間もそのひとつだと思いますが、そう思えることは非常に嬉しいことですね。

■「愛のテーマ」の発表デモを聴いて...
「愛のテーマ」は、森岡君の曲ですね。口笛も森岡君ですね。なんとなく「カッコーの巣の上で」のラストを彷彿とさせますね。アフリカ音楽のようでありながら、西部劇音楽の風情もあります。大自然の呼吸というイメージもありました。やはり哀愁がありますね。ラストの曲になることと思いますが、さわやかに未来を展望する眼差しがメロディーに感じられました。小説を、皆さん、読み込んでくださっているなあ、と思いました。小説の空気感が曲になるということは、こういうことなのですね。とても嬉しいことでした。

■イラストを完結させた奥井に宛てたメールの本文から...
大仕事を終えられて、安堵なさっていることと思います。大変にお疲れ様でございました。それぞれのテーマに沿って立て続けにイラストを作成され、みんなの芸術心をくすぐり、話題が広がる、こんなに素晴らしいことはないですね。僕は自分の小説に関して、「作品が手を離れる」ということをすごく実感しています。自分のエリアにあるときは、とり立てて発展性がありませんが、皆さんのお引き立てで、英語の歌詞になり、メロディーが誕生し、演奏され、イラストでイメージが膨らみ、あまりにも立派なものになり、もうすでに、「自分の小説」の範囲を越えています。「私淑の人」はいつのまにかRUGの皆さん、奥井君、上南君のオリジナル性を得て、すっかり僕から巣立っています。改めて、小説「私淑の人」に立ち返りますと、自分の思い出は十分に込められていますが、何と平面的で瑣末的な小説か、と感じます。それは、ここ数ヶ月の間に、皆さんが分厚く、カッコよく、立体的なものを作ってくださったから、そう感じるのだと思います。「私淑の人」は、「自分の手を離れて、スポットを当ててもらい、成長させてもらったんだな」と感じます。本当に有り難いことだと思います。

初めは気軽な気持ちで、小説のコピーを森岡君に送りました。昨年の秋でした。それが一年後、このような展開になるとは、考えもしなかったことでした。友達とは本当に有り難いですね。奥井君とも親しくなれまして、本当に財産を得たと思っています。またお会いできましたときは、どうぞよろしくお願いいたします。僕も今以上によい小説が書けるようにいろんなことを経験し感じ取り、日々を暮らしていきたいと思います。奥井君の良き芸術活動をいつも祈っています。お互い、頑張りましょう。

■録音作業完了の連絡を受けて...
メールをいただきましてありがとうございました。また、皆さん、録音完了、音源完成、おめでとうございます。ご苦労も多々あったことと思います。細々とした準備もまだ続いていることと思います。ただ傍観するだけの自分ですが、日々、RUGの活動を垣間見させていただくことができまして、楽しい一年でした。年々、完成度が高くなるRUGのサウンドのもと、新しい作品がまもなく聴けるのですね。嬉しいです。今回、自分の小説を採用くださったことに改めて感謝いたします。とてもよい記念になりました。ありがとうございました。

Illustrations For "One Who's Adored" WHAT IS ? CONTENTS MAKING PROCESS NOTES FROM AUTHOR ILLUSTRATION FROM THE WORDS

ここでは小説および音楽と連動して作成されたイラストについて、制作者であるデザイナー奥井弘自身に語ってもらう。

※尚、掲載したイラストは今回の作品集には採用されなかった貴重なブラックバージョンである
  また各イラストをクリックすると 『私淑の人』 試写会へ移動、全バージョンが確認できる

◆メインタイトル
メインタイトル主人公が新幹線の車窓から見ると彼方に母校の高校の校舎が見える。一瞬の逡巡のうちに新幹線はトンネルへ。タイトルバックが流れる... 30年前の新幹線は0系ですが、現在の新幹線は700系です。RUG版「私淑の人」は【時は2008年、主人公が過去を回想する】と言うことなので、新幹線は700系にします。バックの写真は、我らが卒業アルバムの写真を使います。アインシュタインの相対性理論によれば、光の速度を超えることが出来れば未来へ行けるらしいですが、過去へは行けるのかな?

※700系「のぞみ」は「ひかり」を超えてタイムマシーンとなり、30年前にタイムスリップ!!!!!!

◆友との出会い
友との出会い「お風呂は?」 節子が訊いた。「銭湯。すぐ近くにある」 純は部屋の窓を開けて、ほら、と言った。「ほんまや。煙突が見える」 節子が笑った ....

残念ながらその銭湯の写真は入手困難のため僕の地元の銭湯の写真を使いました。イラストのほうは、缶ビールを描いてみました。三人が純の部屋で飲んだビールの味は生涯最高の味がしたかもしれない。味覚はそのものの物理的な味だけで決まるものではない。同じものを食べたり飲んだりしても、その時の精神状態が味覚を大きく左右する。ただし、料理人や味覚評論家の仕事を否定するつもりはまったくありません。いろいろなものを食べ、味覚を追求していくことで、普通の人には知れえないものを知り、それを料理として提供し、また、評論していくことは人々を幸せにする大事な仕事であると思うからです。『友との出会い』で三人がビールを飲んで、節子の話した「言葉」は、三人が同じ思いで通じ合った気持ちそのもののように思います。その象徴として、今回は缶ビールにしました。

※「ふーっ。私、洛北大学に入ってよかった」 節子はほおを赤らめた。「ビールを飲むって楽しい」 幸せそうに節子は笑った .... 学校の帰り、純の部屋で新平、純、節子の三人が缶ビールを飲みながら窓の外を眺めると、銭湯の煙突の向うで三人の心が夕日とともに茜色に染まってゆく。

◆師との出会い
師との出会い写真は洛北大学のモデルとなったB大学で図書館を撮ったものです。カラーバージョンのほうは紫を使おうと思います。仏教界では宗派によって違いがあるみたいやけど、紫は一番位の高い色のようなので、師を仰ぐ色としてふさわしいかと思います。イラストのほうは、「蓮の花」を師と見立てて描いてみました。仏教において「蓮」は泥の中でも美しい花を咲かせると言う事で、泥は現世を表し、花は「悟り」を開いた人を示すようです。そして「蓮の花」と出会い、これから教えを受ける三人(新平/純/節子)をお地蔵さんとして描いてみました。

「私淑の人」のなかで“若い者も結構いるが、年配者も多い”と書かれていましたが、B大学にいた人はみんな若かったで。おっさんは、俺だけやないか! まー、1月7日から学校に来るような おっさんはいいひんか。

◆キャンパスライフ
キャンパスライフ写真は東華菜館(京都・四条大橋にある老舗の中華料理店)を撮った写真です。本来この章では東華菜館はでてこないのですが、新平・純・節子と共に吉沢先生・光村知子と新平のキャンパスライフを彩った登場人物がそろい、楽しい時間を過ごした場所としてこの写真を使います。イラストは新平・純・節子がディスコ大会で踊った場面で、三人を花火に例えてみました。

ディスコ大会の楽しい時間は今宵かぎり。花火の花も一瞬ですが、その時間が楽しければ楽しいほど、また、その瞬間が鮮やかであればあるほど人の心に強く残るように思います。そしてそれらの記憶は永遠にその人の宝物となります。人は何を感じて花火を見ているのかな? ただただ美しい時間の瞬間に立ち会っているのかな? 流れ星を見たときに願いをかけるように、花火に何か願いをかけているのかな? いっしょに見に行った人との友情や愛を確認しているのかな? いずれにしても、花火には不思議で美しい力があるように思います。

※新平・純・節子の夢と希望をのせて、三つの花火が夜空のキャンパスに舞踊る。

◆教え
教え心に残る重要な「教え」なので、格調高くモノクロベースにしたいと思います。写真は洛北大学のモデルとなったB大学の6号館3F教室です。今回はイラストではなく吉沢先生が色紙に書かれた「言葉」をそのまま使おうと思います。この「言葉」がラストシーン『それぞれの道』『大切なもの』につながる重要な「言葉」に思えるからです。また、この言葉は作者である後藤君が初めて読んだときから大事にしている「言葉」だと思うし、そのときから現在にいたり、これから先も後藤君の心に残る「言葉」だろうと思います。この「言葉」は後藤君の人生そのものの時間を表す「言葉」としてとらえたいと思います。

◆友への思い
写真は、新平と純と節子がたびたび立ち寄り、言葉をかさね友情を深めていった「かざりや」の写真です。今回のイラストは、三人を楽器に例えてみました。クラリネットはもちろん新平で、ピアノは節子、チェロは純になります。ピアノの骨組みは、物語の舞台となる紫野周辺の地図になっています。「かざりや」での談笑は、それぞれの楽器が響きあい、三人はひとつのハーモニーとなって、美しいメロディーを作り出します。カラーバージョンは、三人が友情を深め暖めていく過程としてオレンジにしました。

友への思い音楽、絵画、彫刻、文学、演劇、映画、写真etc.いろいろな芸術があるけれど、エヴァンゲリオンの第二十四話で渚カヲルが「音楽はすばらしいね。人間が作った最高の芸術だね」と言うような台詞がありました。いろいろある芸術のなかでも関わる深さは人によってそれぞれ違うけど、音楽は一番広く人に影響を与えているように思います。音楽、絵画、彫刻、演劇はライブで見たり聞いたりしたほうが断然心に響くけど、多くはCDや画集で見たり聞いたりすることになります。なかでも絵画は画集の印刷物では伝わらない部分が大きいけど、音楽はCDそのものが本物として制作されているので、ライブの熱気感はないけれど逆に音楽そのものを冷静に聞けるように思います。それと、人の人生の節目のなかで、いろいろな音楽がその人の記憶の中に刷り込まれていくし、音楽そのものが日常のなかにあります。そう言った意味でも音楽が一番人に影響を与えているように思います。

※クラリネット・チェロ・ピアノのアンサンブルは一体となり至極の音色を奏でて、オーケストラを超えてゆく。

◆師への思い
師への思い写真は(お盆にみんなで探しに行った)吉沢先生宅の百日紅を撮った写真です。百日紅の花言葉には「敬愛」「雄弁」などがあります。「敬愛」は辞書を引くと『尊敬すると共に親しみの情をもって接すること』とあります。師への思いを込めて、百日紅は新平を表します。

イラストは星座にします。左側の星座は蟹座で、7月5日生まれの吉沢先生を表します。右側の星座は牡羊座で、3月26日生まれの木山捷平を表します。二人の師は暖かい眼差しで新平を見守ります。

※百日紅が蟹座と牡羊座に出会い花ひらき、無限の力に願いを込める。

◆手紙
写真は九段下の皇居の桜を撮った写真です。蕾みもまだまだの2月の桜の木と、桜が満開の4月と同じ桜の木です。満開の桜を新平からの手紙、花も葉もない桜を知子からの最後の手紙としました。今回のイラスト(イラストとは言えないか)は封筒にしました。当時の郵便番号は5桁の時代で、切手はその当時の60円切手です。また消印は場所により違いがあるみたいではっきりとはわかりませんが、当時の消印を再現してみました。

手紙いきなり、かわいい子から手紙なんかもらったら、それがラブレターでなかったとしても男だったら誰でも心ひかれるよね。男は単純だし勘違いするよねって俺だけか? 一昨年、東野圭吾原作の「手紙」という映画を見ました。弟のために罪を犯した兄が、弟に迷惑をかけているであろうことを詫びる手紙と、被害者の家族に犯した罪の謝罪の手紙を刑務所から送り続けるが、弟にも被害者の家族にもやがてその手紙が重荷になっていく。ただ一人の家族である弟との絆を守りたいと思う気持ちと、被害者の家族への罪を償いたいと思う気持ちを手紙を通しての「言葉」でしか表現できない兄のやりきれない無念の気持ちと、弟と被害者の家族の苦闘を描いた映画です。何十通か何百通の手紙を送られた被害者の家族が見舞いに来た弟に「もうこれで終わりにしよう」と言ったのは、ただ長い時間だけが解決させたのではなく、封を開けて読んだ訳ではないが、罪を犯した者の真姿な気持ちを受け取ったからだと思います。この映画を見ていないとわかりにくいかと思いますが、いい映画だったと思います。僕は手紙を書いた事はあまり記憶にありませんが、就職して東京に転勤になったとき父親と祖母にもらった手紙は残してあります。手紙には言葉を超えた愛情が含まれているように感じられ捨てる事はできません。手紙には不思議な力があるよね。

桜は日本人にとって特別だよね。満開の桜は「始まり」「再生」「覚醒」「祝い」いろいろな事が感じられます。恋の始まりから葉が落ちて恋の終わりがあったとしても、すべてが終わったわけでもなく、また始まりがある。最後の手紙は悲しくつらい手紙だったとしても、好きになった人が幸せになることはどこかで祝福をしたいと思える人間でありたいと思います。新平からの満開の桜の手紙は恋の始まりとともに、桜の時期に嫁に行く人への祝福の手紙にしたいと思います。

※生まれた恋が桜の下で人を成長させ、彩り鮮やかな錦鯉になっていく。

◆それぞれの道
写真は大徳寺境内の道を撮った写真です。この道の突き当たりが洛北大学のモデル、B大学の正面になります。日本画家の東山魁夷の作品のなかに「道」と言う作品があります。美術館で誰のコメントだったかは忘れましたが「戦後、物も希望も何もかもなくなったときに、この作品を見て、この道の向うに希望があるように思えた」と言うようなコメントを読んだことがあります。人は夢や希望があるからこそ生きていけるように思います。今回の写真の構図は、東山魁夷の「道」を意識したものです。佛教大学から続くこの道は、新平/純/節子の夢と希望の未来への道となります。

【新平ちゃんは翼をもっている人だと思う。どこへいっても立派にやる人だと思う】

それぞれの道イラストのほうは、三人をユリカモメとして描いてみました。人は皆、翼を持っているように思います。ただ自分が翼を持っている事を知らないか、わからない人がいるんだと思います。節子は大学院へ、純は高校教師として翼をそれぞれ広げた事をわからないだけで、本当は二人とも羽ばたこうとしているのです。ただ、飛ぶところが違うのであって、渡り鳥のようにシベリアまで飛ぶ鳥もいれば、日本中の山を飛び回る鳥もいるし、生まれ育った山で飛ぶ鳥もいます。生まれ育った山で飛ぶ鳥が、シベリアまで飛ぶ鳥をみて輝くように見えただけで、三人とも翼を広げたんだと思います。京都で鳥と言えば、僕はどうしてもユリカモメになります。三条大橋・四条大橋から見るユリカモメはどんな夢や希望を持って飛んでいるんやろね。今回のカラーバージョンは青を使おうと思います。この無限に広がる青い大空に夢と希望の世界が待っています。

※B大学から続くこの道を四条大橋から見る鴨川の借景として、ユリカモメは夢の世界へ舞っていく。

◆大切なもの
写真は京都駅の空中径路から京都タワーを撮った写真です。今回のカラーバージョンはイエローにします。「幸せの黄色いハンカチ」などイエローには幸福のイメージがあります。新平が30年の年月を振り返ったとき、今現在が幸福だと感じられるならば、それは新平がすばらしい人生を歩んできたのだと思います。最後のカラーバージョンは幸福のイエローにします。

大切なもの今回のイラストは2パターンです。ひとつめのイラストは京都駅の新幹線のホームへあがるロビーのエスカレーターと、最後に節子を描いてみました。今回のプロジェクトの始めに「私淑の人」制作委員会報告事項で“この小説、読めば読むほど新平と節子の出会いと別れの物語のような気がするのです”とありました。

【私、東京へ行きたい】と節子が言ったのは正直な気持だろうと思うし、新平が心ひかれながらも節子を大事にしたいと思ってとった行動には切ない気持ちにさせられます。【ふと、節子が車内の通路をとおったような気がした。しかし、それは、ただ節子と同じような紺のオーバーコートを着た、小柄な大学生風の女の子がとおっただけのことだった】と小説の最後にはありますが、新平の心が見たのは節子だったと思います。エスカレーターの前で【私、東京へ行きたい】と節子が言った気持ちと【ふと、節子が車内の通路をとおったような気がした】と新平が感じた気持ちをだぶらせてイラストを描いてみました。そしてRUGの青い月がやさしく新平と節子を見守ります。


ふたつめのイラストは錦鯉です。恋も失恋も喜びも悲しみも30年の年月でいろいろと経験し、人は成長し人生が彩られます。今、ふと自分の人生を振り返り、今まですばらしい仲間や先生に出会い良い人生だったと思える自分に幸せを感じます。高校を卒業してから、新平は大海を泳いできて、色鮮やかな錦鯉となって、心に錦を飾ります。

◆アルバム・ジャケット
アルバム・ジャケット今回は説明はなし。ヨロシク!!!

◆さいごに
今回は私のわがままで勝手にイラストを描かせてもらいました。みんなの感想を聞かせてもらい一連の作品に付合ってもらい感謝しております。今回、後藤君の「私淑の人」と言う小説を通して、自分自身あらためていろいろな事(デザインを含め)を考えさせてもらいました。本当に良い機会であり、良い2008年になったと思っています。

Overlook From The Words ... "One Who's Adored" WHAT IS ? CONTENTS MAKING PROCESS NOTES FROM AUTHOR ILLUSTRATION FROM THE WORDS

ここでは最初に策定されたRUG版「私淑の人」の基本的なシナリオ、およびこの流れに沿って歌詞を書いていった山口による“歌詞から見た「私淑の人」”について...。

◇主人公が新幹線の車窓から見ると彼方に母校の高校の校舎が見える。一瞬の逡巡のうちに新幹線はトンネルへ。タイトルバックが流れる
1.「私淑の人」メインタイトル Main Title - One Who's Adored
これはインストゥルメンタルナンバーなので歌詞はない。従って本来コメントすることはないのだが、このスペースを借りて序章がわりに制作メモを書かせてもらう。

・私が読んだ素晴らしい小説「私淑の人」は私自身の結論から言うと一人の少年の成長と旅立ちを描いた小説である
・非常にすっきりとまとまった小説なので歌詞を書く上でそれを崩さないことに留意した
・ただしある一点について小説ではあまりにもさらっと流しているのが気になった。よって歌詞ではそれに若干こだわっている
・小説は三人称を用い現在形で書かれている。だが歌詞では主人公が当時をふり返る形にしたかったので一人称を用い過去形を主体に
 書いていった(現在形が使われているところは現時点の主人公の心象と考えられたし)

◇主人公、近代化された京都駅をぶらぶらする。彼はあの懐かしき時代のみっつの出会いを回想する
2-4.ある新しい出会い One Of New Meetings
“それぞれの出会いが人生を通じて僕を育てた。ありがとう、僕らの出会いよ...”

小説の冒頭は少年が得た三つの重要な出会いが描かれている。木山捷平は彼のライフワークとなったし、友人達は今も付き合いのある楽しい仲間だ。そして何より彼の学生時代を支えたのは吉沢先生との出会いではなかったか? 歌詞においてはこれらの甲乙付けがたい出会いを箇条書き的に並べてみた。

◇主人公、吉沢先生のイメージと期待を膨らませ三回生のスクーリングに臨む
5.安心できる優しい目 Gentle Eyes Ease Our Mind
“直接貰ったかのように先生の言葉をあたためた。その時すでに僕は先生の影響下にあったのだ”

そして三番目の出会いが少年にとってもっとも大きな出来事となった。決して話をした訳ではないのに、遠目に見た先生の姿、そして先生がしたためた文章が少年に特殊な作用を及ぼした。尚、歌詞としてはすでに「ある新しい出会い・その3」でその出会いを紹介してしまっているので、ここでは先生自身について、その略歴も織り交ぜて書いてみた。

6.夏のキャンパス Summer Schoolyard
“それは誰かに恋をするような感覚”

主人公が夏期スクーリングを履修したのはひとえに吉沢先生に接したかったからではないだろうか? そして講義の後、研究室に訪問するチャンスを得たにもかかわらず尻込みしてしまう。それは恋にも似て、後から振り返ればまどろっこしい感情であったようである。

◇主人公、コンパで吉沢先生と初めて言葉を交わす。またダンスパーティで踊り楽しい仲間達と青春を謳歌する
7.はじめての言葉 The First Word
“「先生、一杯いかがですか?」 これが先生に言ったはじめての言葉”

ここで初めて吉沢先生が実体となって少年の心に宿ったのである。これそのものは些細なエピソードかも知れないが、この小説にとっては非常に重要な場面である。

8.踊ろよベイビー Dance Dance Dance With Baby
“男も女も、若者も年長者も、ここではみんな赤ん坊。先生も学生も、淑女も紳士も、さあ踊ろよベイビー”

勇気をもって先生に言葉をかけることが出来た少年はキャンパスライフを謳歌する。恐らく当初持っていた通信生のイメージは覆され、良き研究対象、良き仲間、良き師に恵まれた彼は自分が通信生であることに誇りすら感じていたのではないだろうか? この歌詞はダンスパーティで踊り狂う彼の心境を綴ったつもりだ。

◇主人公、吉沢先生にあの思い入れの強い言葉を色紙に書いてくれるよう頼む
9.二枚の色紙 Two Square Pieces
“今僕の手元には一枚しかないがそれはまた別の物語。これはある時代が詰まったかけがえのないもの”

この段階で少年の運命は決定されたのだ。吉沢先生の言葉が記された二枚の色紙は彼の人生に大きな影響を与えることになる。またこの場面は小説においては(歌詞でも触れたとおり)もうひとつの重要なエピソードへの伏線となっている。

※このあたりが前半のハイライトではないかと思う。ここまでは主人公が吉沢先生に抱く私淑の気持ちをゆったりしたイメージで描く感じで。また以降は主人公をとりまく二人の女性と彼の心のふれあいを中心に...

◇再び現代の主人公。紫野・衣笠エリアをぶらぶら歩く彼が映し出される。軽快な音楽とともに当時の思い出がフラッシュバックされる
10.あぶりもち Rice Cake Toasted
“そのうちいつかまたあぶりもちを食べにいこう...”

幕間。意識してかせずかは別として、いったん流れを落ち着かせる役割をもつエピソードとなっている。

◇主人公の心に新しい感情が芽生える。表向き何気ないふりを装う節子...
11.さざなみ Wavelet
“彼女は僕らの間に発生した小さなさざなみ”

歌詞においては「手紙」の序章として光村知子の登場を描いた。純と節子という仲間との交流とそこに忍び込む知子の存在、という対比である。「私淑の人」が“一人の少年の成長と旅立ちを描いた小説”とするならば、この知子とのエピソードは非常に重要である。後に登場する「手紙」が旅立ちのきっかけとするならば、そこに至る大きな要因を作ったのは知子の存在だと思う。またこれは4番目の出会いとも言える。

◇主催側として臨んだパーティも盛況に終わる。
  京都・鴨川の日暮れ時の涼しげな風景、続いて縁台に出て星を眺める吉沢先生のイメージが挿入される
12.夜空の天井の下で涼む Cool Off Under Ceiling Of The Night
“僕は夜空の天井の下で涼む。僕はよい学生生活が送れて幸せだ。本当に”

充実した学生生活を送る主人公の少年が描かれるエピソード。この歌詞ではアルコールも手伝って、涼しい風に吹かれて幸せを感じる少年の幸せ感みたいなものを描きたかった。本来ここで光村知子の姿が徐々にはっきりしてくるのだが、それは一つ前の「さざなみ」にゆずり、ここはとにかく主人公の充実した姿を記録しておきたい。

13.星に想う(先生の家) Wish To The Stars (Master's House)
“先生はそこで星にすいこまれ、時によろめいたのだ”

主人公の少年はこのエピソードで吉沢先生の家を見つける。“私淑”とは恋愛に似た気持ちなのかもしれない。相手のことはどんなことでも知りたい、とか。逆に言えばこのエピソードで彼はようやく先生を等身大の人間として見ることが出来るようになったのではないだろうか?

◇主人公の恋のはじまり、そして終わり。それを見守る節子
14.手紙 Letters
“優しき歳月よ、僕はうぬぼれていた... あのここちよいときめきよ...”

少年にとってささやかながら最初の試練である。手紙のやりとり、という当時としては当たり前の通信手段による光子との交流を適度に描く。光子の衝撃的な告白は少年の心にある“旅立ち”というボタンを押したのではないだろうか?

◇ほろ苦い出来事を体験して改めて自分を見守る仲間達を大事に思う主人公。そんな中で別れの時は刻一刻と近づいてくる
15.友を想う Love And Respect To Friends
“いついかなる時も、新しい友も昔馴染みも、僕は全ての友を想う”

小説では主人公の少年が卒業試験を受けるシーンがこの部分にあたる。二人の大切な仲間は自分の道をしっかり定め、それぞれ教員試験、大学院試験を合格した。少年はどうか? 卒業試験を何とかこなした段階である。この場面は前述「手紙」のエピソードで芽生えた“旅立ち”への準備段階にもとれる。 一方ここでは卒業試験というひとつの区切りを迎えた少年が仲間達への思いを新たにする、ということも読み取れる。それは主人公(=作者・後藤雄二氏)の友人を大切にするすばらしい資質に共通するものである。

尚、このシーンにおいては光村知子が結婚が破談になったことを主人公に告げる重要な場面があるが個人的にはちょっと唐突でなんとなく不自然に感じているので、主人公が言った“この大学の連中はみんなナイス”というところだけを歌詞に織り込んだ。また繰り返しにおいて奥井君が何かの折りにくれたメールの文章を引用、“本物”とは“真の友達”というかなり強引なまとめにもっていった...。

16.別れの予感 Feel The Goodbye
“挑戦の時がやってきたのだ。僕は孤独を感じたが、はっきりと言う 「アホやね、泣き虫先生や」”

少年はいよいよ旅立ちを決意する。別れの時が近づいていることはみんな判っているが敢えて口にしない。尚、この小説ではあまり描かれていない純との友情がこの一言に凝縮されていると思う。

◇再び現代の主人公。何気なく入場券を購入し新幹線のホームにあがる。シーンは一転してあの時のホーム...
17.ネイビーブルーのオーバーコート She's Crying In Overcoat Navy Blue
“後悔していない、と言えば嘘になる。たった今彼女がとおりすぎたような気がする。僕のそばを、ネイビーブルーのオーバーコートを着て...”

そして少年はいよいよ旅立っていく。少年には心の深層でぼんやりと判っていたのだ。節子が現れこの涙を流すであろうことを。少年は旅立ちへの期待に心躍らせるあまり、節子の気持ちを考えてやれなかったのであろう。だが一方では節子もこの結末を判っていたはずだ。この青春時代特有のほろ苦さを伴うエピソードを経て少年は旅立っていくのである。

◇再び現代の主人公。紺のオーバーコートを着た節子が側を通り過ぎた気がした... 洛北大学を中心としたいろいろなシーンのフラッシュバック。
  そして最後はカメラが吉沢先生が色紙を書く場面から夜空にパンして“完”の文字が...。
18.「私淑の人」愛のテーマ Love Theme - One Who's Adored
吉沢先生はそんな少年を温かく見守ってくれた。“私淑”を受けている先生は先生なりにそれに応えてきたのである。それは今も一枚だけのこる色紙の言葉となって当時の少年を見守っている...。

ご拝読、ありがとう。では中身の方もお楽しみ下さい。